映画感想:『JUNO/ジュノ』
2008年 07月 14日
16歳の高校生ジュノは、男友だちのポーリーと興味本位でした1回のセックスで妊娠してしまう。親友のリアにだけはことの次第を打ち明け、中絶することを決めたジュノだが、訪れた病院で思い直すことに。リアとともにタウン誌で養子を探す広告を出している夫婦のなかから、理想的な1組を見つけたジュノは彼らに連絡をとり、両親にも妊娠を告げるのだが…。
原題:JUNO
監督:ジェイソン・ライトマン
脚本:ディアブロ・コディ
出演:エレン・ペイジ、マイケル・セラ、ジェニファー・ガーナー
もうすぐ公開が終了だ! と、あわてて先週末に『JUNO/ジュノ』を観にいってきました。監督はジェイソン・ライトマン。アメリカで公開が始まったときはわずか7館での上映だったのに、その後野火のように評判が広がり全米で大ヒット! という映画です。ちょっと前なら『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』、最近なら『ミス・リトル・サンシャイン』あたりが同じように口コミで上映館が増えていった映画ですよね。アメリカではたまにこういう低予算なのにすごいヒット作が出てくることがあって、これがやっぱり口コミで広がるだけあっておもしろかった~。
まずエレン・ペイジが演じた主人公のジュノがすごくイイ。軽妙だけど冗談なのか悪態なのか見極めがたいきわどいヒネった物云いをするし、本人の意識のなかでは付き合っていたわけでさえないポーリーと、なんとなくしてしまった1回のセックスで妊娠してしまう、という役なので、はすっぱで無責任なコのかと思いきや、前向きで愛情にあふれたとってもピュアな女のコでした。話が進むにつれて、子どもの部分と大人な部分が混在している彼女をどんどん好きになっていっちゃいましたよ。
ジュノが妊娠がわかったときにまず考えたのは中絶。それを思いとどまったあとは生まれてくる子どもと自分にとって最善の道を選ぼうと努力します。いったん“こうする”と決めたら、グチグチと自分の行為を後悔したり相手に責任を求めることに時間と労力を費やしたりせず、まず行動しちゃうその潔さと強さはちょっとまぶしいくらい。子どもを養子に出すということをすごく軽く、簡単に考えているように見せかけて、ジュノにはジュノなりの思いや葛藤があることもわかります。出産のあと子どもの顔を見ずにすませる意思の強さと、それでも流さずにはいられない涙のシーンがすごく印象的でした。
そして、大きな衝撃は受けてもハードドラッグにはまるよりマシだと、あっさりジュノの選択を受け入れちゃう父親と義母の反応にはびっくりでした。たとえアメリカでももっとヒステリックになる気がするんですが~。でもこれは子どもに対する愛情が希薄だったり無関心だったりするからじゃなくて、ジュノをひとりの人間として扱っているからこそで、彼女の意思を尊重しているわけですね。もちろん彼女は自立した大人ではないから、親としてできる限りのサポートはする。その距離のとりかたがやっぱり潔いしあたたかい。ジュノを侮辱する人間にピシャリと言い返す義母の姿にはスカッとしたしカッコよかった!
ジュノの妊娠がわかってからも変わらぬ態度で側に寄り添ってくれる親友のリアも良かったし、頼りなさそうだけど朴訥で一途そうなポーリーもかわいい。養親候補のヴァネッサも素敵な女性です。ヴァネッサは最初はすごく神経質そうで「なんだかな~」という印象だったのが、ジュノが子どもを任せて大丈夫だと信頼するようになるのも納得って感じでした。ヴァネッサがジュノの大きなお腹に触れて赤ちゃんに話しかけるシーンは、彼女がいかに生まれてくる子どもに期待しているか、愛情を持っているかが伝わってきて感動的。わたしは演じているジェニファー・ガーナーには今まで“戦う女性”のイメージしか抱いてなかったので、こんなにやわらかくて女性的な役を自然に演じられるんだ、と意外な一面を見た気がしました。
妊娠発覚から子どもが生まれるまでの9ヶ月間をとおして、ジュノだけでなく周囲の人間も様々な経験をし、みなが新たな人間関係を結んでなにかを得るというお話。10代の少女の妊娠・出産を扱っているのに、観終わったあとには重苦しいものが残ってなくて、ほんわかした気分になれました。まぁ現実に10代で妊娠しちゃったら、本人も家族もなかなかこんな風には対処できないだろうけれど (特に日本では難しかろう…)、映画としてはとてもうまくまとまっていたし楽しかったです。なにより、脚本を書いたディアブロ・コディの、ちょっとスタンダードから外れた人間へ向ける眼差しの優しさとあたたかさが伝わってきた気がします。
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