映画感想:『ジャンパー (字幕版)』
2008年 03月 17日
15歳のときに“ジャンプ”=“瞬間移動”の能力に目覚めたデヴィッドは、母のメアリーが失踪してから暴力的になった父親のもとを逃れ、その能力で世界を自在に駆け巡る気ままな生活を送っていた。ところがある日、デヴィッドのようなジャンプ能力を持つ人間=ジャンパーの抹殺を使命とする秘密組織“パラディン”のエージェント・ローランドがデヴィッドの前に現われた。なんとかローランドの攻撃から逃れたデヴィッドは、故郷へ舞い戻ってくるのだが…。
原題:JUMPER
監督:ダグ・リーマン
原作:スティーヴン・グールド
脚本:デヴィッド・S・ゴイヤー、ジム・ウールス、サイモン・キンバーグ
出演:ヘイデン・クリステンセン、ジェイミー・ベル、レイチェル・ビルソン
仕事帰りに映画を観にいこうと思い立ち、映画館へ。一番観たかったのは『バンテージ・ポイント』だったんですが、あいにくちょうどいい上映時間がなくて、第2候補だった『ジャンパー』を観てきました。監督は『ボーン・アイデンティティー』や『Mr.&Mrs.スミス』のダグ・リーマン。『ボーン~』は好きなんだけど、『Mr.&Mrs.スミス』はどうも好みとあわない映画だったので、この『ジャンパー』はどっちに転ぶかな~と思いながらの鑑賞でした。
結果は…。う~ん、普通におもしろくて退屈はしなかったのでつまらなくはない。ハラハラするところもちゃんとありました。でも、全体的にのめりこむようにして観ることはなかったですねぇ。
一番の敗因は、主人公であるデヴィッドにこれっぽっちも共感できなかったってことでしょうか…。だって! このデヴィッド、めちゃくちゃ自己チューなんだもんっ!!
デヴィッドはジャンプ能力を自在に操れるようになってからは自堕落に暮らしてるわけですが、そのための生活資金ってのが銀行の金庫室にジャンプして、そこからかすめとってきた (というのもおこがましいくらい大量の) 現金なわけですよ。まぁ能力に目覚めた15歳のころなら生活能力もなかろうし、この行為もなんとか許容範囲です。
だがしかし。それから10年近く経ってもまだその状態ってアンタ…。しかもやたらと自尊心だけは強いイヤミな青年になっちゃって。テレビのニュースで洪水で取り残された人々の様子などが流れていてもまったく無関心。知らんぷりで遊びに出かけちゃったりとかね、いろいろと「なんじゃコイツ!?」と思わせるエピソードが出てくるのでございますよ。
でも、デヴィッドの生い立ちは決して幸せといえるようなものではなかったし、こういう性格になってもしょうがないか、と物語の冒頭では納得もできます。そのかわり観てる側としては、そんな風に自分勝手な、特殊な能力があってもひたすらそれを己の楽しみのためだけにしか使わない人間が、物語が進むにつれいろんな困難にぶつかったり、彼を導いてくれる人間が出てきたり、愛する人ができたりと、様々な出来事があってこれから内面的な成長を遂げていくんだろうと期待するわけですよ。
しかしながらどれだけストーリーが進もうともデヴィッドのなかでなにかが変わる様子は毛筋ほどもなく、ローランド率いるパラディンと壮絶な追いかけっこをしながらハデな戦いを繰り広げるばかり。最後には恋人のミリーと手に手をとって逃避行♪ って、オイッ! 精神的成長は? 今まで自分がやってきたことに対する反省は? そういうものは一切ナシなんですか~!? というエンディングに、エンドロールを観ながらしばし呆然…。なんとういか、観終わったあとにごっつい消化不良感が。これでは素晴らしかった映像の魅力も半減した気分であります。
結局のところ、この映画はデヴィッドの物語を描くことではなく、“瞬間移動”というものを映像で表現することを主眼にしていたってことなんでしょうか。確かに瞬間移動することによって生じる空間のひずみとか、ジャンパーが出現するときの演出とか、今までにない表現で斬新でした。あと、ジャンプ能力を駆使しての戦いも、視覚と音響の効果をフルに使ってすごい迫力で楽しめます。ただ、この迫力はどうしても大きなスクリーンに整った音響設備の映画館でないと感じられないものだと思います。いくらホームシアターの環境が進化していても、映画館とは同じようには再現できないんじゃないかな~。
この『ジャンパー』、1作めがヒットすれば三部作の予定だそうですがどうなることか?? わたしはどちらかというと物語を楽しみたい派なので、2作めがもし製作されたとしても、この貧弱な物語の続編をわざわざ観にいくかどうかはかなりビミョーって気が。脚本が劇的に変われば話は別だけど、映画の狙いが物語にないのなら、ちょっとそれも望み薄な気がしますしねぇ。
とにかく、今から観にいこうという方は、ストーリー的なものはあまり期待せず、映像の奇抜さ、斬新さを楽しむつもりでいかれたほうがいいと思います。あと、設備ができるだけ整った映画館をチョイスすることをお勧めします~。
●映画『ジャンパー』の公式サイトはコチラ。
●映画の原作本
『ジャンパー (上)』
『ジャンパー (下)』
スティーブン・グールド (ハヤカワ文庫)