読書感想:ロイス・マクマスター・ビジョルド 『スピリット・リング』
2008年 03月 05日
ロイス・マクマスター・ビジョルドの『チャリオンの影』がとにかくおもしろかったので、以来ぽつぽつと彼女の作品を読みすすめています。SFのマイルズ・シリーズももちろん楽しく読んではいるのですが、とっかかりがファンタジーだったため「ビジョルドのファンタジーはほかにないもんかいの~」と、『チャリオンの影』の続編『影の棲む城』以外で、唯一翻訳されているらしいファンタジー、『スピリット・リング』を手にしました。
時代はルネサンス、ところはイタリアの小国モンテフォーリア、主人公は16歳の少女フィアメッタであります。フィアメッタの父ベネフォルテは金細工師であり金属に関する魔法についてはほかの追随を許さない大魔法使い。フィアメッタはベネフォルテの才能を受け継いでいるものの、女の子であるということでベネフォルテから正式に魔法の手ほどきを受けることができず、かといって持参金がないために結婚することもできそうにない、という状況にいます。
けっこう鬱屈していてもおかしくないフィアメッタですが、彼女が勝気で口が達者(笑)、とことん前向きなコなので、モンモンとしたうっとうしさが物語のなかには出てこず、気持ちよく読み進めることができました。ただ、彼女が最初からかなり自分というものをしっかり持った女の子なので、物語の最初と最後で彼女自身が大きく変化したっていう感じではないんですよね。むしろ変化したのは彼女の環境で、自分の能力を周囲に認めさせて自立する術を掴み取るサクセス物といった雰囲気。少女の成長物語を期待して読んだら、それとは少し違っていた気がします。
そしてもうひとりの主人公はモンテフォーリア公の近衛隊長ウーリの弟で、鉱夫であるトゥール。かなり背が高いという設定やその性格から、読んでいるうちにわたしのなかのヴィジュアル・イメージはすっかり海外ドラマ『スーパーナチュラル』のサム (ジャレッド・パダレッキ) に固定されちゃいました(笑)。だってね、純朴で誠実で勇敢、それでいてちょっとヌけたところもある好青年という設定、すごくぴったりなんだもの~ (年齢はトゥールのほうがちと若いですが…)。というわけで、近衛隊長であるおにいちゃんのヴィジュアル・イメージは自然とディーン (ジェンセン・アクレス) になってしまいました。でもこれもなかなかハマってると思うんですけど、どちらの作品もご存知ってかた、どう思われますでしょうか??
で、こんなふたりが、モンテフォーリア公を殺害し、邪悪な黒魔術によってベネフォルテの魂をスピリット・リング (死霊の指環) に封じ込めようとするロジモ公と魔術師ヴィテルリという敵と戦うことになるわけですが、物語の展開が早くて中だるみなく一気に読めます。最初にちりばめられていた伏線がラストにむかって次々と拾われていくところも、パズルがひとつずつはまっていくような感じで爽快感がありました。
フィアメッタ側の人間はそれぞれに力は持つものの欠点もあり、ひとりではとても対することのできない敵に、みなが自分の役割を果たしていくことで打ち勝つというところもいいです。圧倒的な能力を持つ人間がひとり活躍するのではなく、ひとりひとりが自分の領分のなかで必死の努力をして、それが結果的に大きな力になるというのがスリルを生み出し、読んでる間じゅうハラハラすることができました。あちこちにユーモラスな場面が盛り込まれていて、最後までクスッと笑わせてくれるところも楽しいです。
翻訳者さんが解説で述べているとおり、簡単に触れられているだけで謎めいたフィアメッタの母親をめぐる続編があってもおかしくないと思うのですが、そちらはあまり期待できなさそうな雰囲気なのが残念です。鉄火肌のフィアメッタと、そんな彼女に振り回されているようで実はしっかり包み込んでいるトゥールのカップルが、この『スピリット・リング』よりもう少し大人になって登場するとかなりいいと思うんだけどなぁ。まぁないものねだりをしても仕方がないので、ここはひとつおとなしくマイルズ・シリーズを読みながら五神教シリーズの続刊が出るのを待ちたいと思います。