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映画や本の感想アレコレ。ネタバレにはほとんど配慮してません。ご注意! 


by nao_tya
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映画感想:『今宵、フィッツジェラルド劇場で』

〔ストーリー〕
 ミネソタ州にあるフィッツジェラルド劇場では、ラジオショウ「プレイリー・ホーム・コンパニオン」の公開録音が始まろうとしていた。実はこのラジオショウは今夜が最終回。テキサスの大企業がラジオ局WLTを買収し、番組の打ち切りを決定したからだ。出演者たちはいつものように楽屋入りし、番組が始まるのだが…。

 
原題:A PRAIRIE HOME COMPANION
監督:ロバート・アルトマン
原案:ギャリソン・キーラー、ケン・ラズブニク
脚本:ギャリソン・キーラー
出演:メリル・ストリープ、リリー・トムリン、ギャリソン・キーラー

 10時上映開始のロバート・アルトマン監督『今宵、フィッツジェラルド劇場で』を観ようと思っていたのに、起きたとき時計の針は9時半をさしていた。ありえない…。公開終了間近で1日に1回しか上映してないのにっ。しかもそれは午前中でこの週末しかチャンスはないのにっ。
 しばし呆然としてしまいましたが、梅田の劇場ならお昼から上映があることを思い出し、行き先を三宮から梅田へ変更し、無事に観ることができました。やれやれ~。

 実を云いますとわたしはそんなに数多くアルトマン監督作を観ておりません。一番印象に残ってるのが01年の『ゴスフォード・パーク』だっていうんだから知れてますわな~。でも『今宵、フィッツジェラルド劇場で』はアルトマン監督の遺作だし、やっぱり観ておきたかったのでございますよ。

 長い歴史に幕をおろすことになったラジオショウの出演者たちが、最後の収録をこなしながら過ごす悲喜こもごもの一夜。出演者は誰もが最後だとは知っているけれど、そのことを口にしようとはせず、いつもと同じようにしゃべり歌い演奏する。とある事件というかハプニングが起こってもそれで上へ下への大騒ぎになるようなこともなく、舞台の様子はそれなりににぎにぎしいけれど、非常に淡々と静かに時間が流れていく映画でありました。

 でも、決して退屈するようなこともなく、ひと癖ふた癖ある個性豊かな面々の軽妙な会話や見事な歌がとても楽しかったです。群像劇なのでキャラクターたちに関する短いエピソードが切り取られていき、それをひとつずつを積み重ねていくことで、独特のやさしくって少し切ない雰囲気がかもしだされていたように思います。

 あと、ヴァージニア・マドンセン演じるところの“デンジャラス・ウーマン”に象徴されるように、映画全体に死の影がちらちらと見え隠れしていたのが印象的。この映画をつくっているときのアルトマン監督の体調がどんなだったのかはわからないけれど、やっぱり監督自身が自分の死を意識していたのかな~。

 デンジャラス・ウーマンのセリフに「老人の死は悲劇ではない」とあるように、アルトマン監督は“死”というものをすでに受け容れていて、人生のなかで人がいろいろな終わりを迎えるように、日常と地続きのなかで自分自身の終わり(死)がやってくる日を待っていたのかもしれません。

 俳優さんたちのなかでは、わたしはやっぱりメリル・ストリープに注目しちゃいましたね。この間彼女を観たのは『プラダを着た悪魔』だったので、モードの最先端でバリバリ仕事をこなすキャリアウーマン・ミランダと、このちょっとうらびれたおばちゃんくさいカントリー歌手・ヨランダとの落差がすごかった~。でもどちらも作った感がないのはさすが。歌う様子もあくまで自然体で力みがなく、なかなかよかったです。リリー・トムリンとの息もピッタリ。メリル・ストリープは『マンマ・ミーア!』の映画版の出演も決まっているそうで、彼女がどんな風にABBAの歌を歌うのか楽しみになってきました♪

 ウディ・ハレルソンとジョン・C・ライリーが演じた、お下劣な下ネタ連発のカウボーイ・デュオにはバカ笑いさせてもらいました(笑)。こんな掛け合い漫才みたいな“下ネタ大好き!”の歌が運転中にラジオから流れてきたら、笑いすぎてデンジャラス・ウーマンの二の舞になっちゃう危険性がありますな。

 ラジオショウは確かに終わってしまうんだけど、それは全ての終わりを意味するわけじゃなく、もしかしたらなにかの始まりにつながっているのかもしれない。映画のラスト、この“最後の夜”の数年後に顔を合わせた出演者たちの様子を観ながら、そんなことをしみじみと感じたのでありました。

●映画『今宵、フィッツジェラルド劇場で』の公式サイトはコチラ
by nao_tya | 2007-04-22 23:48 | 映画感想etc.