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映画や本の感想アレコレ。ネタバレにはほとんど配慮してません。ご注意! 


by nao_tya
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映画感想:『それでもボクはやってない』

〔ストーリー〕
 フリーターの金子徹平 (加瀬 亮) は就職の面接に向かう満員電車のなかで、女子中学生に痴漢をしたと勘違いされ、現行犯逮捕されてしまった。
 話を聞いてもらえば無実だとわかってもらえると考えた徹平だが、駅事務所では何も聞かれず警察に引き渡されてしまう。警察の取調べでも容疑を否認した徹平は勾留されることに。
 ここから徹平の痴漢えん罪を晴らすための長い戦いが始まるのだが…。


監督:周防正行
脚本:周防正行
出演:加瀬 亮、瀬戸朝香、山本耕史

 周防正行監督の11年ぶりの新作映画、『それでもボクはやってない』 を観てきました。こういう映画がつくられているという話を聞いてから興味があって、公開を待っていた映画です (そのわりに観にいくのが遅い)。
 上映している劇場が少ないうえに上映館のキャパが大きくないせいもあって、ほぼ満席の状態。みんなの関心をそれだけ惹く映画なんだなぁと実感しました。

 わたしは諸事情により刑事事件がどんなふうに進行してくのかということについて、多分ごく普通の人よりは知識があるほうじゃないかと思います (過去に刑事事件の被疑者・被告人になったことがあるってんじゃないですよ~/笑)。
 それでも、情報として知っているだけのことが具体的な映像としてポンと目の前に出されるインパクトっていうのはすごい! 観ている間じゅう「なるほど、なるほど~!」と頷くことばかりでした。

 しかし考えてみるとこれは、ひとりの人間が逮捕され、取調べされ、起訴され、裁判がおこなわれ、判決がくだされるという刑事事件の流れを詳細かつ丁寧に追いかけていくだけで、ひとつのドラマになるということなんですよねぇ。

 もちろん犯罪事件の被疑者や被害者ご本人、そのご家族など関係者にとっては、どんなささいな事件でも、巻き込まれてしまえばとても大きな出来事だとは思います。でも、まったくの第三者からすれば、この映画で扱われている犯罪は新聞の三面記事にも載らないだろうし、普段なら気に留めることもなければ記憶に残ることもないものなんじゃないでしょうか。つまり事件そのものはさして劇的なものではない。

 なのに、いったん「刑事事件」というものの流れをこと細かにみせていくと、言葉は悪いかもしれませんがこんなに“おもしろい”ものになる。
 これって、それだけ今の日本の裁判制度が奇妙でおかしい、問題が多いってことなんだと思うし、だからこそ周防監督は痴漢えん罪事件というものを題材に映画をつくろうと考えたんでしょう。

 で、周防監督のいいたかっただろう「日本の裁判ってなんかヘンじゃない!?」という問いかけは確かに伝わってきて、観た人みんなになにかしらの疑問や感想を抱かせる内容になってたと思います。
 あくまでも現実に即した内容だったので決して後味のいい結論が出るわけじゃないんだけど、そこがまたリアルで良かったんじゃないかな~。実際のところ、映画の“その後”の見通しはかなり厳しいものになるだろうから、明るい気持ちにはとてもじゃないけどなれないんですが…。

 ありのままの裁判のシステムだけを見せるだけでなく、取調べや裁判をとおして、最初は戸惑ったり理不尽さに怒りを覚えるだけだっ徹平が、少しずつ裁くこと・裁かれることについて考えていく様子や、徹平が無実なのか疑っていた須藤弁護士の心境の変化もうかがえて、143分というけっこう長い上映時間も退屈することはありませんでした。
 役者さんたちの演技も、実際にこういう人いるいる~! と思わせる地に足がついた感じの人が多かったし。竹中直人が演じた管理人さんのように、とある人間が逮捕されたと知ったら途端に「前から怪しいと思ってたんだよね~」なんて悪気なく云っちゃう人、いそうじゃありませんか!?

 観てる側は被告人である徹平にどうしても感情移入してしまいがちなところを、彼の弁護士に元裁判官という荒川正義を持ってきて、裁判官の考え方を代弁させたのもいいアイデアだと思います。裁判官が悪人だっていうのではなく、「裁判官は被告人にだけは騙されたくないと思っている」、という言葉は今の裁判をよく表しているんじゃないかな。

 本当は「疑わしきは被告人に利益に」というのが原則のはずなのに、明白に無実であるという証拠がなければ有罪になってしまう、しかも警察や検察は有罪の証拠は探しても無実の証拠探してくれず、被告人側が無罪を立証していかなければならないという現状は本当にこわいです。自分だっていつなんどきどんなキッカケで被疑者、被告人になるかもしれないんだもん。
 また、あと数年で裁判員制度がスタートすると、被告人が有罪か無罪かを自分が判断しなければならなくなるかもしれないわけで、それもまた責任が重くてこわい。

 でも、ただ裁判がこわいって思わせるだけじゃなく、刑事裁判ってどういうものなのか、自分が裁判にどんな形であれかかわることになったとき、こういう制度のままでいいと思うか、などなど色々考えさせられる映画でした。
 あと、少なくとも痴漢なんていう犯罪がおこるのは、満員電車が存在することがそもそもの根本的な原因なんだし、本当になんとかならないものかと思いますね! 裁判が身近になってきたといわれる今日このごろ、そのうち電鉄会社も責任を問われることになるかもしれませんよ~。

●映画『それでもボクはやってない』の公式サイトはコチラ
by nao_tya | 2007-03-07 22:47 | 映画感想etc.