映画感想:『アラトリステ』
2009年 01月 05日
無敵艦隊をイギリスに破られて以来、その繁栄に陰りが見えはじめた17世紀のスペイン。傭兵のアラトリステはフランドルの戦場からマドリードへ戻り、戦友の最後の望みのとおりその遺児イニゴを引き取った。マドリードでは剣客として生計を立てていたアラトリステは、ある日イギリスからやってきた異端者ふたりの殺害を依頼されるのだが…。
原題:ALATRISTE
監督:アグスティン・ディアス・ヤネス
原作:アルトゥーロ・ペレス=レベルテ
脚本:アグスティン・ディアス・ヤネス
出演:ヴィゴ・モーテンセン、エドゥアルド・ノリエガ、ウナクス・ウガルデ
数えてみると、昨年は1年間で42本の映画を劇場で観ておりました。一応年間50本が目標なので、せめてあと2~3本は観たかったというのが正直なところ。見逃してしまった映画も多かったし、今年はもう少し気合を入れていきたいです。で、そんな2008年の劇場での映画鑑賞のトリ(?)をつとめたのは、ヴィゴ・モーテンセン主演、アグスティン・ディアス・ヤネス監督のスペイン映画『アラトリステ』でございます~♪
この映画、スペインでは2006年公開なのですが、2008年の師走にようやく日本で日の目を見ました! ハリウッド資本の入っていないスペイン映画だし、日本でDVDが発売されれば御の字だよね~と思っていただけに、劇場公開されてスクリーンで拝めるなんて感無量でございました。滞在時間はわずか48時間もなかっただろうとはいえ、ヴィゴもプロモーションで来日し、いろんな映画雑誌や映画サイトに登場したのもうれしかったです。
さて、映画本編を観た感想でございますが、重厚感のある「映画を観た~っ」って感じられる映画でありました。ただ、予想していたとはいえやはり華やかさはなかった(笑)。いや、ヴィゴのファンとしてはもう眼福だらけの映画なんだけど、彼のファンという立場から離れてみると戦いのシーンはあまりにもリアル過ぎて土とほこり、汗にまみれた泥くさいものだし、描かれる2つの恋愛模様は悲恋に終わるし、主人公であるアラトリステの活躍でスペインが救われるわけでもない。繁栄にかげりが見え没落しつつある17世紀スペインに漂っていた空気を写し、全体的にほの暗い影を背負ったような内容なのであります。
あとですね、エピソードをチョイスしてあるとはいえ、5巻もある原作小説を145分の映画にしたため、時代がぽんぽん飛んでエピソードが細切れ状態になってしまっているのがなんとも惜しい! 原作既読のわたしとしては「も、もうちょっとここは突っ込んで描いて~!」と思ってしまうシーンがいくつもいくつも…。全体を通してみれば、ちゃんとそれぞれのエピソードには繋がりがあって伏線も用意され、ひとつの物語を形成してるんだけど、とにかく説明不足なところが多いのです。前に登場した人物の再登場のしかたとか、エピソードを描きこんでないから唐突な感じがどうしても否めない。エピソードの繋ぎ目がゴツゴツした感じといえばいいのかな~。でも、観終わってみるとその無骨な感じが一種の味わいになっているようにも感じられたりして、なんだか不思議な映画です。これは予備知識のある人間の感想かもしれないんですけどね。
映像は素晴らしい出来! ベラスケスの絵画を模したシーンが登場したり、陰影をうまく使って作りこまれた画面がとても・とても美しい映画であります。印象に残ったシーンは色々ありますが、特にアラトリステが入院したマリアの許を訪れて、彼女に首飾りをかけるシーンなどは、エピソードの切なさもあいまってため息が出るほど。まるで聖母子像のような構図といい、考え抜かれて撮影されてるんでしょう。小説を読んでいるだけではどうもイメージしにくかった戦闘シーンもわかりやすかった。映像の持つ力を最大限に活かしてあると思います。
先に書いたようにストーリーの流れがわかりにくいところはありますが、役者さんたちの演技もすごく良かった~。国王がどれだけボンクラでもスペインという国に忠義を尽くし (決して国王個人に対してではないところがミソ)、友情に厚いアラトリステの、不器用だけれど誇りたかい筋のとおった生き方というものをヴィゴは体現していたと思います。自分の行為が報われることなんて少しも希望していない、どこか世捨て人のようなアラトリステの影をひそめた姿が、視覚というインパクトをもって迫ってきました。ほんっとうにヴィゴが渋くてカッコよかった♪
ほかの出演者の方も、出番は少なかったけどマラテスタを演じたエンリコ・ロー・ヴェルソ、アラトリステの傭兵仲間コポンス役のエドゥアルド・フェルナンデスの印象がやっぱり強かったかな。コポンスが死んじゃうところとか、ちょっと涙ぐんでしまいましたわ…。マリア・デ・カストロのアリアドナ・ヒルさんも非常に美しくていいわ~。意外だったのは、アンヘリカちゃんが原作とはずいぶん性格が改変されてかわいらしい普通の女の子っぽくなってしまっていたこと。悪女な彼女を観たかった気もしますが、原作どおりの性格の悪さ(笑)は、短い登場時間では表現できなかったかもしれませんね~。
大阪で公開初日の初回に観にいったんですが、劇場の入りは6割くらいだったかな。わたしを含めヴィゴのファンらしき女性のほかに、けっこう年配のおじさんとかが観にきてたのが目につきました。時代背景の説明とかが少ない映画なので、17世紀のヨーロッパ史を知らないとちょっとついていきにくいところがあるかもしれません。パンフレットなどに解説がしっかり載っているので、予備知識がないかたは映画上映の前に目をとおしておかれることをお勧めします。でも、わかってみると本当におもしろい映画だと思います!
●映画『アラトリステ』の公式サイトはコチラ。
●原作本
『アラトリステ』(1~5巻)
アルトゥーロ・ペレス=レベルテ (インロック)