映画や本の感想アレコレ。ネタバレにはほとんど配慮してません。ご注意! 


by nao_tya
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映画感想:『譜めくりの女』

〔ストーリー〕
 ピアニストを夢見るメラニーはコンセルヴァトワールの入学試験を受けるが、審査員のひとりである人気ピアニスト・アリアーヌの無神経な行動に集中力を乱され、演奏を中断してしまう。なんとか演奏を再開するものの動揺したメラニーは実力を発揮することができなかった。十数年後、ピアニストの夢を封印し、大学生となったメラニーは高名な弁護士であるジャンの事務所で実習生として働き始めるのだが…。


原題:LA TOURNEUSE DE PAGES
監督:ドゥニ・デルクール
脚本:ドゥニ・デルクール、ジャック・ソティ
出演:カトリーヌ・フロ、デボラ・フランソワ

 週末にドゥニ・デルクール監督の映画『譜めくりの女』を観にいってきました。確か『スルース』を観にいったときに流れた予告編を観て、「うぎゃあ、コワそ~。でもおもしろそ~!」と思ったんですよね。で、観た結果は予想に違わぬこわさとおもしろさのある映画でございました。

 とにかくすご~く淡々とした静かな映画で、メラニーを演じるデボラ・フランソワはアリアーヌ役のカトリーヌ・フロと対するときはほとんど表情を変えません。わずかに口角をあげて微笑んだかな…? と思わせる程度。セリフも最低限です。だからメラニーがアリアーヌに対してわずかなりとも憧れを抱いているのか、それともただ復讐心だけで近づいているのか、彼女の意図がどこにあるのかがさっぱりうかがいしれないのです。でも不穏な空気がふたりを包んでいき、ヒタヒタと緊張感が高まっていくのだけはハッキリと伝わってくる。最後にふたりがどうなるのか、予想がつかなくてドキドキしちゃいました。

 かつて自分がピアニストなるという夢を封印するとになった写真へのサインという行為で、アリアーヌをどん底に突き落としてみせるメラニーの執念深さというか、静かなる怒りと暗い情熱はそら恐ろしいものがありました。主にメラニーを演じたデボラ・フランソワももちろんすばらしいけれど、子ども時代を演じた子役の少女も良かったな~。試験で失敗したあと、練習室でこれから試験を受ける少女を見つめる目やとった行動などから、まだ幼いといっていいメラニーのなかに、表面には出てこないけれど内側にはマグマのような激情や歪みが潜んでいることがすんなり納得できましたもん。

 一方、メラニーの行動に知らぬうちに振り回され、徐々にからめとられていくアリアーヌを演じたカトリーヌ・フロも良かったです。わたしは彼女の映画は『女はみんな生きている』くらいしか観たことがなくて、『女は…』での親しみやすい平凡な主婦という役どころだったのとは対照的な今回の役にちょっと驚いたんだけど、観てみたらこれが違和感まったくナシ。人気ピアニストだという自信からくるどこか尊大な振舞い、それでいて不安定な精神状態ゆえの神経質な表情やしぐさがお見事でございました。それにドレスアップすると貫禄があってやっぱりキレイなんですよね~。

 映画を観ていて気になったのが、着々とアリアーヌをある方向へ追い詰めていくメラニーの行動はどこまでが計画的なものだったのか、ということです。そもそもアリアーヌの夫であるジャンの法律事務所の実習生になるのは意図してのことだったとしても、そこでジャンたちが子守を必要としている話が出てこなければ彼らの家庭に入り込むことはできなかったわけだし…。でもチャンスがあってそれを利用したに過ぎないというにしては、メラニーの行動は徹底しすぎてる気がするし…。うーん、やっぱりメラニーという女性は謎めいています。

 あと、映画のなかではさらりとしか触れられてませんが、アリアーヌの精神状態が不安定になった原因の交通事故もなんだか怪しい気がしてきちゃって。でも、メラニーが映画のなかでとった行動のひとつひとつは決して犯罪と呼ばれるようなものではなかったから、ひき逃げという明らかな犯罪行為は異質すぎて彼女のしわざではない気もするんですけどね。

 この映画で一番コワイのは、メラニーがなぜ自分を絶望させるようなことをしたのか、アリアーヌにはまったくわからないってことじゃないかと思います。それがどんなに自分にとって理不尽であれ、メラニーの行動の理由がわかればそれに対して怒ったり哀しんだり、なにかしら発散させることができるだろうけれど、メラニーは沈黙を守ったまま姿を消してしまったわけだから。アリアーヌには解けることのない“なぜ?”がこれからずっと付きまとうことになってしまうんですよね…。

 また、アリアーヌがメラニーに依存しきってしまうのは、アリアーヌが実は孤独な人間だからというところも哀しかった。アリアーヌの夫は資産家でアリアーヌのピアニストとしての才能や美しさを愛してやまない男だけれど、才能あるピアニストだからこそアリアーヌを妻として誇りにしている節が見受けられます。つまりアリアーヌの賛辞者ではあるけれど、少しずつ若さを失い、交通事故で演奏への自信も持てなくなった彼女の不安を増幅させる人間でもあるわけです。

 もし自分がピアニストとしてやっていけなくなれば、夫は自分を捨てるかもしれない。そういう恐怖を抱えているからこそ、アリアーヌはメラニーの存在にグラついてしまったんだと思います。何気ない自分の行動が人を絶望に追いやり、相手のなかに隠れていた悪意が萌芽する。その悪意が時を経て自分に向かってくる。それでも、アリアーヌにもっと心を打ち明けて頼ることのできる存在があれば、メラニーの復讐はならなかったんじゃなかろうか。そんな風に思いました。

●映画『譜めくりの女』の公式サイトはコチラ
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by nao_tya | 2008-06-02 22:56 | 映画感想etc.