映画や本の感想アレコレ。ネタバレにはほとんど配慮してません。ご注意! 


by nao_tya
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映画館層:『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』

〔ストーリー〕
 石油採掘師ダニエル・プレインビューのもとへ、ある日ポールという青年が訪ねてくる。ポールの実家の周辺の土地には石油が眠っているというのだ。幼い息子のH.W.を連れて調査に出かけたダニエルは、ポールの情報が真実であることを確かめ、土地を買い占めにかかった。ポールには双子の兄弟イーライがおり、彼はその土地で「第三の啓示教会」という教会の牧師を勤めていたのだが…。


原題:THERE WILL BE BLOOD
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
原作:アプトン・シンクレア
脚色:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス、ポール・ダノ、ケヴィン・J・オコナー

 週末にポール・トーマス・アンダーソン監督の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』を観てきました。この映画を観たのは、前日までの暖かさがウソみたいに冷え込んだ、冷たい雨の降る日でした。この映画、このお天気にふさわしいなんとも重く暗い、そして観終わったあとには寒々しい気持ちになってしまう映画でありました。

 主演のダニエル・デイ=ルイスはまさに怪演! 彼が演じるダニエル・プレインビューは、他人をまったく信用しない、人間嫌いの冷血漢。自分の欲望にはとことん忠実な男ですが、単なる悪人というにはその内面は複雑すぎて、なんとも掴みどころのない、それでいて強烈な印象を残す人間でした。彼が息子として育てたH.W.を本当に愛していたのか、いなかったのか。そんなことも読み取らせません。ただの道具としてしか見ていないようにも思えるし、屈折してはいるけれど愛情があるようにも受け取れるんですよねぇ。

 そんなダニエルを鏡で映したかのような存在が、ダニエルが石油採掘のために土地を買い占めたリトル・ボストンで、「第三の啓示教会」なる教会の牧師をしているイーライです。禁欲的な聖職者の顔をして、その実物質的な分野でダニエルがやっていることをそのまま精神的な分野でやっているにすぎない男で、ことあるごとにダニエルと対立し、確執を深めていきます。

 しかしやっぱりダニエルに比べるとイーライの存在感がやや弱い気がしてしまう…。これはイーライ役のポール・ダノの演技力云々の問題じゃなく、演出上どうしてもこうなるとは思うのですが。信仰や宗教などが個人のうちにある間はともかく、それを広めようとした途端に“お金”が絡んで聖性が失われてしまうということを、イーライの存在をとおして揶揄するために、多分わざとイーライの説教や悪魔祓いのやりかたとなどを陳腐でこっけいにしてる気がするので。対するダニエルの怪物度がスゴすぎるってのもあるかな~。

 それでも、このふたりの対決 (ダニエルの洗礼のシーン、最後のボウリング場でのシーン) は狂気に満ちた空気がその場を支配して、息がつまるような緊張感がありました。大げさな「悪魔よ、出ていけ!」の儀式とか、ボウリングの玉やピンを相手に思い切り投げつけるところとか、ひとつひとつを観てると奇妙でむしろおもしろいと感じてもいいようなシーンのはずなんだけど、ストーリーの流れのなかで観ると、互いに対する憎悪がしたたるようでいやぁもうめちゃくちゃ怖かった…。

 あと、この映画では音楽が非常に印象的で効果的に使われていたと思います。オープニングからしばらくの間は一切セリフがないんですが、その間に流れる音楽がなんとも人の神経に触る、不安をあおるようなものなのです。この後に展開していくドラマの不気味さ、不吉さを予感させて、観てる側は落ち着かない気分にさせられる一方で、一気に映画の世界へ引きずり込まれてしまいました。

 映像的にも油井火災のシーンなどすごい迫力で (あれってCGで作ってるんでしょうか??) 圧倒されました。が、決して娯楽性の高い映画じゃないので好みは分かれるだろうなぁ。わたしは158分という長い上映時間にもかかわらず、まったく時間が気にならなかったです。そして、ダニエルの最後のセリフ、「おれは終わりだ (I am finished)」の意味をいまだに考えてしまいます。それにしてもとことん自分に寄り添うところがない、突き放された感じが強い映画で、時間が気にならなかったわりに観たあとで非常に疲れた気分になっちゃいました~。

●映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の公式サイトはコチラ

●映画の原作本

石油!
 アプトン・シンクレア (平凡社)
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by nao_tya | 2008-05-12 21:35 | 映画感想etc.