映画や本の感想アレコレ。ネタバレにはほとんど配慮してません。ご注意! 


by nao_tya
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映画感想:『ツォツィ』

〔ストーリー〕
 南アフリカ・ヨハネスブルグのソウェトにあるスラムでは、本名を隠しツォツィ (不良少年という意味のスラング) と名乗る少年をリーダーにする小さなギャング団が日夜窃盗を繰り帰し、日々の糧を得ていた。
 ある日、ツォツィは富裕層の女性から車を強奪するのだが、その車の後部座席には生後わずかの赤ん坊が乗ったままだった。ツォツィは思わずその赤ん坊を連れ帰ってしまうのだが…。


原題:TSOTSI
監督:ギャヴィン・フッド
原作:アソル・フガード
脚本:ギャヴィン・フッド
出演:プレスリー・チュエニヤハエ、テリー・フェト、ケネス・ンコースィ

 土曜日に映画を観に三宮まででかけたら、この日はちょうど「神戸まつり」の日でした。あちこちの広場でジャズの生演奏などをしてるせいで人だかりはできてるは、パレードのために道路が交通規制されてて渡れないは、見物客でごった返してるは、いやぁ道を歩いてるだけでぐったりした気分になっちゃいましたわ。パレード参加者や見物客には快晴のお祭り日和で良かったですけどね~。

 さてさて、観た映画はギャヴィン・フッド監督のアフリカ映画『ツォツィ』です。どこだったかの映画館で流れた予告を観てから気になっていた映画なんですが、アフリカ映画としてアカデミー賞ではじめて外国語映画賞を受賞した映画なんだそうです。

 ツォツィ役のプレスリー・チュエニヤハエくんやほかの不良少年のキャストたちは役者が本職の人たちなんですが、最初に画面に登場したとき見るからにヤバそうな気配を全身から発散させていて、本当にストリートキッズを連れてきて演技させたのかと思っちゃいましたよ~。特にツォツィの目がこわい。すわった目といいましょうか、下からねめつけるような視線を投げかけてきて、向こうからこんな人が歩いてきたら絶対道を変えちゃうような、異様な迫力がありました。

 そんなツォツィが強奪した車のなかに生後間もない赤ちゃんをみつけるわけですが、それまでに描かれていたツォツィの行動からしたら、金目のものを奪ったらそのままポイと放置していっても不思議には思いません。でも、どういう気の迷いでか、ツォツィはその赤ん坊を自分の住む部屋へ連れ帰ってしまう。

 このツォツィに迷いを起こさせたものってなんだったんでしょう。赤ん坊があまりに無心で無垢で無力だったからでしょうか。何年も前、病で寝たきりの母親 (多分エイズ…?) や、暴力的な父親から逃げだしたときの、助けてくれる人間をなにより必要としているのに、誰からも手を差し伸べられなかった自分を、赤ん坊が思い起こさせたからでしょうか。

 とにもかくにも、絶対的な庇護を必要とする存在を抱え込んだことで、ほんの短期間にツォツィがそれまで眠らせ、鈍磨させていた人間性を呼び覚ましていく様子は非常にあざやかでした。セリフ自体はすごく少ないんですが、視線や表情で彼の変化が如実に伝わってくるのです。
 汚れたおしめのかわりに新聞紙を使いーの、おなかを空かせた赤ん坊のために乳飲み子をかかえる女性ミリアムの家に押し入りーのと、やってることは前と変わらずそりゃもうメチャクチャなんだけども。

 お乳をあげたり身体をふいてあげたり、ミリアムが甲斐甲斐しく赤ちゃんの世話をしている様を見るツォツィの表にうかぶのは、優しいという言葉では微妙にズレているような、なんというかもううっとりと陶酔しているような表情です。その顔を見ていると、ツォツィがどれだけそういった無償で示される愛情に餓えていたのかが感じられて、切なくなってきてしまいました。
 短めの上映時間のなかにぎゅっと詰まったミリアムとの不思議な交流、足の不自由な老人との会話も胸に響きます。

 ただ、ツォツィがどれだけ変化したといっても、彼が今まで犯してきた罪が消えるわけでもないし、犯罪の被害にあった人たち (特に亡くなった人) が救われるわけでもないと思います。ツォツィの贖罪は始まったばかりで、それを全うできるかどうかもよくわからない。それでも、この映画のラストにはほんのわずかでも希望があるような気がします。

 すさまじい貧困のなかで生まれ育ち、未来への展望なんて持てるわけもなく、生き抜いていくためにはなりふりかまわず犯罪に走るしかなかった少年が、「もしかしたら変われるのかもしれない」と思わせられるということは、すごいことだと思います。単純な終わりではなく、そこから未来が見えるかもしれないし、見えないかもしれない、その微妙な感じがリアルでよかった。
 ひと口に感動した~! っていうタイプの映画じゃないけど、とても心に残る映画でありました。

●映画『ツォツィ』の公式サイトはこちら

●映画の原作本
ツォツィ
 アソル・フガード (青山出版社)
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by nao_tya | 2007-05-13 23:58 | 映画感想etc.