映画や本の感想アレコレ。ネタバレにはほとんど配慮してません。ご注意! 


by nao_tya
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読書感想:五條 瑛 『 J 』

 好きな作家さんはいろいろいますが、そのなかでも恩田陸さんと五條瑛さんは新作がコンスタントに出る作家さんだと思います。
 途切れることなく本が出版されるのはもちろんうれしんだけど (財布は軽くなるがな!)、数がかさめばやっぱりなかには「うーん、イマイチ??」という、自分にはどうも合わないものも出てきてしまいます。しかし、先日読了した五條瑛さんの『J』は、けっこうわたし的にはアタリでございました!

 舞台は日本ですが、自衛隊を国軍にするための憲法改正が国会で論じられ、反対運動も盛ん、大規模テロこそないものの東京のそこかしこで日常的にミニ・テロがおこっているという、実際の日本とは微妙に違う世界のお話。

 主人公の秋生は大学受験に失敗し、タテマエは浪人生ということになってますが、予備校に籍だけおいて毎日渋谷付近で遊び歩いている青年です。
 ある日いつもどおりにブラブラしていた秋生が、街で“J (ジェイ)”と名乗る女性に出会うことにより、様々な変化が彼のなかでも周囲でも起こっていくのでありました。

 五條さんの小説ではよく抗いがたい魅力をそなえたカリスマというか、誘惑者 (メフィストフェレスのような、と云えばいいのでしょうか) が登場します。今回その役回りを演じるのはJってことになるわけですが、カリスマが女性というのははじめてのパターンなんじゃないかしらん。

 どの作品のカリスマも確固たる自分の信念を持ち、人の心理に通じているので、弱い人間の心のヒダに巧妙に入り込みます。彼らはそうやって魅入られた人間たちを目的のために利用しつくし、非情ともいえることをしてのける人間たちです。

 そして、自分のした行為によってどんなに人から責められようと、たとえ大きなしっぺ返しがこようと (実際にはあまりにもあざやかな立ち回りと、相手が利用されたとは思ってなかったりするせいで、因果応報で窮地に立たされるようなことはないんですけど)、それを引き受ける覚悟みたいなものも備えているんですな。惹かれる人間はヤマといるのに、あくまでひとりで立っている孤高の姿がなんともいえずカッコいいのです~。

 Jももちろんそんなひとりで、“凛とした”という形容がぴったりくる感じ。だがしかし、Jもはっきりとした目的を持ってはいるんだけれど、その目的を実現するための手段に迷いというか、“この方法は間違っている”という思いを抱いていて、でも別の手段を見つけられずに苦しんでいる。こういうある種の“弱さ”を見せるキャラクターは今までになく、とても新鮮でした。

 一方の秋生は、Jと出会うまでは目標もなく惰性で毎日を過ごす無気力な若者だったのが、やりたいことを見つけ、毎日努力を重ねるうちにどんどん良い方向に変わっていきます。
 具体的には格闘技に目覚めて、同じジムの先輩でプロの久野さんにかなりの勢いでなついちゃうんですよね(笑)。しかも秋生が一方的に慕っているのでもなく、久野さんも秋生をかわいがって、まだまだ初心者の秋生に“いつか試合しようぜ。俺と”なんてことまで云っちゃうわけです。で、秋生はますますがんばっちゃう、と。

 なんちゅうか、こういうほかの人間が入り込めないつながりを持った男同士みたいなのって、男性作家の書くハードボイルドにはよく登場してますが、女性である五條さんの描き方もとっても細やかでうまいと思います~。

 この話のなかではテロの実行だけを請け負う“テロ請負業”なるものが登場します。自分の主義・主張は声高に叫ぶけれど、面倒なことや危険なことは金にあかせて他人におまかせ、という人間のエゴがむきだしになった仕組みで、なんとも気分が悪くなってしまいます。現実にこんなことがあったら相当いやだけど、実際にないとは言い切れないのがやりきれないですね。

 そして、“島”がこのテロ請負業をこなすようになり、泥沼から抜けられなくなってしまった背景も哀しい。秋生のセリフで“たぶん、俺たちは全員加害者で被害者なんだろうなって思ってさ”というのがあって、不幸の輪に気付いてもその輪をどう断ち切ればいいのかわからないジレンマも感じます。

 坂崎、メイラン、アイラなど島の人間たちの過去や現在はとても重いものだし、秋生の周囲にいた人間もいろいろ大変なことになってしまいます。また、五條小説らしく最後には大きなパニックが起こる話なんだけど、不思議と読後感は悪くなかったです。サスペンスよりも秋生の成長物語という面が強く出てるからかなぁ。
 何年か後の秋生とJがもう一度邂逅するような話が読めたらすごくうれしいんだけど、書いてくれないものでしょうか、五條さん。別にふたりがメインキャラでなくてもいいから!
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by nao_tya | 2007-04-04 23:32 | 読書感想etc.