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映画や本の感想アレコレ。ネタバレにはほとんど配慮してません。ご注意! 


by nao_tya
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読書感想:コルネーリア・フンケ『魔法の文字』

 昨年ずーっと読み進めつづけていたコルネーリア・フンケの『Inkspell (INKHEART TRILOGY)』は、なんとか昨年末に読破できました! 2ヶ月で読了なんてとんでもなかったです。
 というのも、ブログのメニュー欄の「通勤のお供」はずっとコレのままでしたが、合間に日本語の本に浮気しまくってたから(笑)。いや~、辞書を引きながらでないと意味がとれないところが多すぎて、亀の歩みというとむしろ亀さんに失礼なくらい進みが遅いもんで、自分の英語読解力に嫌気がさしちゃうんだよん。

 その結果、12月初めに翻訳版が『魔法の文字』としてWAVE出版から出版されるという顛末に…。本屋でたまたま『魔法の文字』を見かけたときは、「お、追いつかれてしもうた…」と衝撃を受けちゃいましたわ (だったら早く読め/笑)。
 それからはもう大車輪! ザクっとですが筋をつかんだあとで翻訳本をじっくり読ませていただきました。
 これだけ早く翻訳本が出たのは、やはり三部作の第1部である『魔法の声』の映画化が具体的に進行しているからなんでしょうか。

 で、お話の感想はというと、わたしは前作の『魔法の声』よりこの『魔法の文字』のほうが断然好きですね!
 『魔法の文字』は『魔法の声』のラストから数ヵ月経ったところから始まります。物語を声に出して読むと、その物語のなかからその物語のなかの事物を“読み出し”、かわりにこの世界のなかのものを物語のなかへ“読み送る”力を持った少女・メギーが主人公。

 メギーがまだ幼いころ、同じ能力を持つ父親のモーが、そんな能力が自分にあるとは知らずに朗読し、自分の妻でありメギーの母親であるレサを読み送ってしまった本のタイトルが『闇の心 (Inkheart)』です。
 そしてモーに『闇の心』の世界 (=闇の世界) から読み出されてしまったのが、火を操る能力はピカイチの火噴き芸人・ホコリ指。彼はこちらの世界にどうしても馴染めず、なんとか「闇の世界」に戻りたいと願っていて、『魔法の文字』の冒頭でその願いをかなえて自分の故郷へ帰っていきます。

 しかし、ホコリ指と同じく読み出され、ホコリ指と敵対する悪党・バスタたちも「闇の世界」へ帰還することを知ったホコリ指の弟子・ファリッドはホコリ指に忠告して彼を守ろうと、メギーに頼んで自分も「闇の世界」へ読み出してもらおうとします。
 前作でメギーたちの許に戻ったレサから「闇の世界」の話を聞き、この世界を魅力的なものだと感じていたメギーは、ファリッドとともに自分をも「闇の世界」へと読み出してしまうのでした。

 前作では詩人・フェノグリオが作り出した「闇の世界」は登場人物たちの会話のなかに登場するのみでしたが、今回はここが舞台となります。残酷だったり理不尽だったり恐ろしい面もあるのに、どこか人を惹きつける力のある不思議な世界です。
  『魔法の声』でおなじみの登場人物たちに加え、新たに「闇の世界」の住人たちなども増え、それぞれの思惑や行動が引き起こす展開は先の予想がつかず、かなりスリリングなものになりました。

 新しいキャラクターのなかで一番わたしをビックリさせたのはホコリ指の奥さん、ロクサンナの存在ですね~!
 ホコリ指はレサに心惹かれていたということだったし、『魔法の声』では「闇の世界」に残してきた家族のことなんておくびにも出さなかったから、奥さんはおろか子どもまでいたと知ったときにはあごが落ちそうでございました。
 でも、これでホコリ指があそこまで「闇の世界」に執着した理由や、彼がこちらの世界で感じていた孤独感もわかった気がします。
 ホコリ指を尊敬し、彼のことが大好きでたまらないファリッドとロクサンナが微妙に互いに対する敵愾心を燃やしている様子もなんだかおかしい。ホコリ指、モテモテじゃん(笑)。

 『魔法の文字』では前作とくらべて、物語そのものが持つ力というのがより大きな要素となっている気がします。
 「闇の世界」に入ったフェノグリオは自分が創造した世界なのに自分の思惑を超えて動き出してしまった世界を、なんとか自分のコントロール下に引き戻そうとするんですが、「闇の世界」が意志を持ってそれを拒むかのような展開になっていきます。
 フェノグリオが書いた話の筋を追うかのように見せかけて、肝心なところでその思惑を外し、予期せぬ方向へ世界が動いてしまう。むしろ、「闇の世界」そのものが自分の望むものを手にするためにフェノグリオが作り出す話を利用しているようです。

 メギーたち「読み出す」能力を持った人間はなんでもかんでも声に出して読めばいいというわけではなく、少なくとも読み上げる文章はその世界を創造した人物=作者の語彙のなかにある言葉か、一般的な言葉で綴られていなければならない、というルールがあります。このルールからもわかるとおり、作者と物語の世界には密接なつながりがある。けれど、両者は決して一体のものではなく、一度誕生してしまった物語世界は独自の力で息づいている。たとえ創造主であろうと物語の流れを意のままに変えることはできない、というのが『魔法の文字』をおもしろくしているんだと思います。

 フェノグリオが「闇の世界」にやってくるまでは存在しなかった人物・カケスを、実在の人間にするために読み出されてしまったらしいモーがどうなるのか、フェノグリオが書いたとおりではないけれど、やはり命を落としてしまったホコリ指は復活できるのか、などなど第3部で待ち受ける展開が非常に気になります。かなりダークで苦いラストを迎えた『魔法の文字』なので、第3部でメギーたちがどんな状況に陥るのか予想がつかない…。なんだか物見遊山な気分でいるオルフェウスはカンにさわる存在のままだしな!

 第3部のペーパーバックが出たらまた辞書を片手にがんばりたいと思います。今度こそ、翻訳版に追いつかれないうちに読み終えたいぞ。
 『魔法の声』の映画はIMDbによると2007年公開予定みたいだし、こちらも非常に楽しみです! アンディ・サーキスのカプリコーン、ポール・ベタニーのホコリ指ってけっこう期待できるよね~♪
by nao_tya | 2007-01-06 23:26 | 読書感想etc.