読書感想:畠中 恵 『ねこのばば』
2006年 12月 07日
『ぬしさまへ』以来、なかなか文庫にならない「しゃばけ」シリーズに焦れて、現代モノの『百万の手』を読んでみたものの、これがどうもわたしにはピンとこなかったんですね。なもので、『ねこのばば』も期待したわりにイマイチだったらどうしよう!? なんていらぬ心配をしていたのですが、まったくの杞憂でありました。
表題作のほかに4編の短編が入ってまして、いずれもほんわか優しかったり切なかったりするお話で、すいすい読めてしまいました。
人の間に混じって暮らしてはいても、感覚がどこかしら人間とはズレている妖たちと、一応人間である若だんなとの会話は軽快で、でも時に間が抜けていてとても楽しい(笑)。
このシリーズに登場する妖たちは基本的に明るくて、悪さをしてもなんだかかわいらしくて許せてしまうんですが (むしろ人間が起こす事件のほうがよほど陰湿で、暗くてこわいことが多い)、「産土」はちょっと趣が異にしていました。語り口はのほほんとしていても、ほのかな哀しみを秘めた話が多いのはいつものことなんだけど、佐助と妖たちの対決シーンは背筋にひんやりしたもの感じる怖さがありました。
もちろん妖たちがコトを起こすのには人間側からの働きかけがあるわけですが、この「産土」で妖たちの“悪気のなさ”に人間との隔たりというか、やっぱり人間とは違うんだなぁってことを感じさせられたのです。
でも、違うとはいっても妖たちに情がないわけではなく、むしろ自分が好意を持つ人間に対しては、若だんなの兄やたち、仁吉や佐助のようにあたりかまわぬ献身ぶりを見せるわけなんだけど。思いをかけない相手に対しては冷淡そのものなんだなぁ。
しかし、佐助の思い出話にほだされちゃって、いつもはイヤな顔をする薬を素直に飲む若だんながやっぱり健気でかわいい(笑)。こういう若だんなだから、人間に思いもつかぬほど長生きしている妖たちが惚れこんじゃうんでしょうなぁ。
5話のなかで一番印象に残ったのは、最後に収録されていた「たまやたまや」。若だんなの親友・栄吉の妹、お春ちゃんに縁談が持ちあがって…、というお話。子どものころからたくさんの時間を共有してきて、まるで妹のように思っていた女の子が嫁ぐかもしれないとなれば、相手のことがやっぱり気になるわけで、様子を探りにいった先で若だんなが騒動に巻き込まれてしまいます。
実は若だんなに思いを寄せていたお春ちゃんからの若だんなに対する謎かけと、それに対する若だんなの答えは、ほろ苦くてちょっと切なかったけれど、とてもいいお話でした。
自分にとってとても大切な存在ではあってもその感情は恋ではない。だから彼女を選ぶことはできない。「この人でなければ」という相手にいつか出会いたい、という若だんなの思い。
身体が弱いせいもあるけれど、穏やかでのんびりした性格のように見える若だんなのなかに、思いをかけた相手にとことん尽くす、情のこわい妖の血がしっかり流れてるんだな~と思ったりもしました。
ひとつひとつのお話に、表紙絵を描いている柴田ゆうさんの扉絵がついているのも楽しい! 最初に『しゃばけ』を読んでみようと思ったのは、この柴田さんの絵に惹かれたからなんですよね。このシリーズはこれからも変わらず柴田さんの絵でいっていただきたいものです。普段はグッズ関係の懸賞には応募したりしないんだけど、「しゃばけ大福帳」には心惹かれちゃいます(笑)。応募して当たったら、来年からまじめにお小遣い帳でもつけようかな~。
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シリーズの紹介や用語解説、作者の畠中さんのメッセージなどがあって充実してます♪