映画や本の感想アレコレ。ネタバレにはほとんど配慮してません。ご注意! 


by nao_tya
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読書感想:ドロシー・L.・セイヤーズ 『誰の死体?』

 ここんとこ、ずっとコーネリア・フンケ女史の『Inkspell』の英語版を読んでるんですが、自分でイライラするくらいちょびっとずつしか進んでおりません (1日1章の目標なんて宇宙の彼方さ~)。自分の英語力の低さが諸悪の根源なんですが、いい加減英文ばっかり追いかけるのも疲れてきたので、ちょっと息抜きにドロシー・L.・セイヤーズの「ピーター卿」シリーズの長編第1作『誰の死体?』に手を出してみました。
 ある朝、とある建築家宅で浴室のバスタブに誰とも知れぬ男の死体が出現した謎と、金融界の名士が失踪した事件をピーター・ウィムジイ卿が解決するというお話です。
 先に短編集を読んだときにはさほど感じなかったんですが、このピーター卿、博識のなせる業なのかかなりおしゃべりですな(笑)。そして話のなかにしばしば実際の本からの引用が出てきます。注釈がついているから引用だってことがわかりますが、素のまま読んでたらなにがなにやら…って感じになりそう。
 二枚目というわけじゃないみたいですが、博識でお金の心配なんてしたことないだろう貴族のボンボン (公爵家の二男坊) が趣味で探偵をやってるなんて、聞いただけならすごくイヤミな設定です。だがしかし、読んでみたらピーター卿はなかなかの好人物で深みのある人間でございました。
 第一次世界大戦時の経験からしばしば発作におそわれるピーター卿は、憂鬱から逃れるために熱中できる趣味 (探偵業) に精を出すわけですが、そういう自分に対していささか後ろめたさを感じているようなところがあります。謎を解き明かすことはおもしろいけれど、自分が犯人を突き止めることによって、様々な影響が犯人のみならず周囲の人間にも及ぶことを考えてしまう繊細なところがうかがえるのです。ストーリーの終盤近く、犯人のことを褒め称えて感謝する人間の言葉を聞いて、複雑な心境に陥ってしまうピーター卿の描写なんかは非常に秀逸でおもしろかったです。
 また、ピーター卿の周囲を固める人々もいい感じ! ピーター卿の執事 (従僕?) で探偵業においては優秀な助手であるバンターはもちろん云うまでもありません。バンターがピーター卿に話しかけるときの「御前」っていう云い方、趣があって好きだなぁ! 原文だと「My Lord」なのかしら。これは翻訳者の妙ですねぇ。
 あとピーター卿の母であるデンヴァー先代公妃が魅力的で、わたしはすっかりファンなっちゃいました。
 先代公妃は貴族らしく上品でおっとりしているんですが、ピーター卿がとある人物から彼女の名前を使って情報を引き出したことを会話のなかから察して、相手に自分が利用されたことを気付かせることなくうまーく話をあわせていくところなんて本当にお見事でした。ピーター卿にさりげなく母親らしい気遣いをみせるところも好感度が高いです。母親に頭が上がらない探偵って、なんだか内田康夫さんの浅見光彦探偵みたいですね(笑)。
 しかし、こういうお母さんから生まれて同じ環境で育ったのに、ピーター卿のお兄ちゃんで現公爵のジェラルドさんがえらくガチガチに固そうなのはなぜなんだ。やっぱり長男の責任感があるから(笑)?? 浅見探偵のお兄さんとは違って、ピーター卿の探偵業には難色を示しているジェラルドさんですが、長編第2作の『雲なす証言』では彼が事件の容疑者になってしまうみたいですな。事件をとおしてピーター卿に対する評価も変わるんでしょうか。このへん、ちょっと楽しみです。
 ストーリー自体は、読んでいたら大体犯人の目星はすぐについちゃうかもしれないし、ピーター卿の推理も理屈を積み上げていって解決に至るのではなく、様々な要素を眺めているうちに直感的に解答がひらめくという形なので、ちょっと物足りないところもありました。でも「いかに無関係の人間の家に突然死体が出現したのか」という謎に対する答えは「なるほどね」と納得のいくものでおもしろかったです。何より登場人物たちが個性豊かで、とても楽しかった。彼らがどんどん活躍する続編も、じっくり読んでいきたいです。
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by nao_tya | 2006-08-17 23:24 | 読書感想etc.