映画や本の感想アレコレ。ネタバレにはほとんど配慮してません。ご注意! 


by nao_tya
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読書感想:エリス・ピーターズ 『背教者カドフェル』

 エリス・ピーターズの「修道士カドフェル」シリーズ、長編最終話『背教者カドフェル』を読み終わりました。事務所のU地さんに1冊ずつお借りしながら読み進めてきたシリーズですが、これが最後かと思うと感無量です!
 あとがきによりますと、作者のピーターズ女史は続編を執筆中だったそうですが、書き終えないうちに亡くなられ、自分以外の誰もその作品に結末をつけてはならないという指示があったそうな。続編が読めないのは残念ですが、確かに作者以外の誰かが勝手に事件の展開を考えて本が出版されても、なんだか納得いかないですもんね。
 それに、この『背教者カドフェル』は長編20作に及ぶこのシリーズの終尾を飾るのにふさわしい1作だったと思います。
 内容はといいますと、内乱の中心人物であるスティーブン王とモード女帝、その他の有力者たちが一堂に会する和平協議が開かれる知らせが、背こぶのロバートからヒューのもとにもたらされところから始まります。
 この知らせと同時に、女帝派であったド・スーリが王側に寝返る際、彼に従わなかった守備隊の騎士たちを捕虜としたこと、その捕虜のなかに名乗りこそ挙げていないもののカドフェルの息子であるオリヴィエ・ド・ブルターニュが含まれていることが判明しました。
 捕虜となった騎士たちは王によって支持者たちに分配され、身代金を要求されるなどしていますが、ただひとりオリヴィエに関してだけは身代金の要求もされず、捕らえている人間や場所などがわからないままになっているのでした。
 カドフェルは修道請願を立てた身ですから、ロバート修道院長の許しがなければ修道院を離れることはできません。オリヴィエとの関係を打ち明け、なんとかヒューとともに会議に出席することだけは許してもらいますが、捜索の成果に関わらず、会議が終われば速やかに修道院に戻るように言い渡されます。
 許された期間以上に修道院を離れていれば規律に反したことになり、カドフェルは背教者となってしまいます。例えそうなっても、カドフェルはあくまでもオリヴィエを無事に救出するまでは諦めない覚悟で旅に出るのでした。
 このお話では、いつものような若者たちの恋は描かれていません。そのかわり、ひとつの殺人事件と3組の親子の葛藤と愛情が描かれています。親子のひと組めはもちろんカドフェルとオリヴィエ、もうひと組は女帝の異母兄で強力な支持者であるグロスター伯ロバートと、彼の息子で突然王派に鞍替えしたフィリップ。残るひと組は伏せておいたほうが実際にこの本を読むときに楽しめると思います。
 魂の平穏を捨ててもオリヴィエのために奔走するカドフェルと、カドフェルが自分の父親だと打ち明けてくれなかったことや全てを捨ててまで自分を救おうとしたことに最初に腹は立てるものの、彼を理解し受け入れたオリヴィエが、初めて互いを親子として認め合った状態で相対するところはすごくほっとさせられます。互いのことを心の底から誇りに思っている親子っていいですよね~。
 そして、自分の誤りに気付いた息子と、そんな息子を赦した父親が、病床の彼の頬にごく自然に口づけするシーンも、言葉は少ないながらも感動的です。
 フィリップは多分、なにか完全なものを熱烈に崇拝したいタイプの人間なんじゃないかな~と読んでいて思いました。だから魅力もあるけど欠点も数多ある王や女帝に失望してしまったんじゃないかしら。相手に完璧なものを求めるのはオリヴィエに対する態度にも表れてたし。
 失望のあと、背こぶのロバートやヒューのように中庸の立場に立つのではなく、また新たな崇拝の対象を求めて十字軍に加わっちゃうあたりが若いというか、悟ってないなぁと感じてしまいます。結局人間のすることに完璧なんてありえないわけで、カドフェルの云うとおり、きっとまた彼は故郷から遠い地で失望を感じてしまうのだろうと考えたら、ちょっと気の毒な気分に…。
 このシリーズでは、王は度を過ぎた騎士道精神の持ち主で粘り強さに欠けていること、女帝は執念深くて狭量と、どちらもなかなか難儀な性格をしていることが度々出てきますが、それぞれにもちろんこの欠点を補う魅力があるところが人間的でおもしろいと、読んでる側は思います。ただ、その魅力が相手を大きく上回るものではないために、内乱が長引いて国が疲弊してしまっているわけなんですけど。この内乱の結末はもちろん実際の歴史だからちょっと調べればわかりますが、カドフェルの目をとおして見てみたかったなぁ。
 成長したイーヴ・ユーゴニンが少々短気者すが、真っ直ぐで気持ちのいい青年になっていたのはうれしかった! もしピーターズ女史が続編をどんどん執筆していたら、きっと彼の恋の相手も出てきたことでしょう。カドフェルの孫が男女どちらかわからないのと同じくらい残念です。
 攻城戦など、シリーズのなかでは一番派手な戦闘シーンもありますが、最後はやはり落ち着いたシュルーズベリ修道院の空気のなかで終わるところも好きです。今回の旅は、カドフェルが自分の選んだ修道生活に満足し、自分の選択に間違いはないことを再確認したという意味でも実りの多いもので、本当にシリーズに大きな区切りをつけたよいお話でありました。
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by nao_tya | 2006-07-04 23:05 | 読書感想etc.