映画や本の感想アレコレ。ネタバレにはほとんど配慮してません。ご注意! 


by nao_tya
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読書感想:畠中恵 『百万の手』

〔ストーリー〕
 音村夏貴は過干渉気味の母親と、それが起因となっているらしい過呼吸の発作に悩む14歳の中学生。親友で相談相手でもある日野正哉が不審火により焼死してしまい、ショックを隠しきれないでいたところ、なんと形見である携帯電話から正哉が語りかけてきた! 火事の原因を探るため、夏貴と正哉は行動を開始するのだが…。


 大店の若だんなと彼についている妖たちとのほのぼの時代小説『しゃばけ』で知った畠中恵さんの現代モノ『百万の手』が文庫化されたので、早速読んでみました。
 結論から先に申しあげますと、読後感は「う~ん、微妙…?」でございました~。期待が大きすぎたのかなぁ。↑のストーリーのとっかかりから推測するに、夏貴くんが携帯電話についた(?)正哉くんの霊と協力しあって事件を解決。そのなかでいささか親友に頼りぎみだった夏貴くんも徐々にたくましく成長し、最後には正哉くんとの涙・涙の本当のお別れが…、なんて展開を想像していたんです。ところが肝心の正哉くん、とある事情で話の途中から出てこなくなっちゃうんだもん!! そんなんアリか!?
 出てこなくなった正哉くんの代わりに夏貴くんと事件の真相を探っていくのは、母親の婚約者である東省吾さん。この人はこの人で特に嫌いなキャラクターではないんですが、少年ふたりの冒険談みたいなものを予想していただけに、なんだか肩透かしを喰らったような気分だったのでした。
 あとですね、導入部は「亡き親友が形見の携帯電話から語りかけてくる」というオカルトチックというかファンタジックな設定なのに、話が進むにつれてどんどんそういう雰囲気が削られていって、なんだか生々しいというか科学的な方向にいってしまうんで、読んでる側としては戸惑います。そうやって現実路線に軌道修正したのかと思いきや、事件解決のヤマ場に携帯電話が活躍(?)するのもまた唐突な感じが否めないし。結果としてすごくチグハグな印象が残ってしまいます。
 それと、登場人物たちが良く書き込まれている人とそうでもない人の落差が大きい気もします。主人公の夏貴くんはもちろん、東さんのエピソードや描写なんかはけっこう力が入ってるし、最初に出てきたときの胡散臭いオッサンからぐんぐん好感度を上げてくるところとかは良かったです。だけど、その東さんが婚約している夏貴くんのお母さんの描写がほとんどないので、なんでこのふたりがお互いを必要としあって結婚しようとしてるのかが、いまひとつ説得力がない。和美ちゃんなども途中退場させず、もうちょっとエピソードを加えて活躍させてあげれば、けっこう魅力的になったんじゃないかな~。
 全体的に、登場人物たちが事件を起こしたというのではなく、事件のために登場人物たちが配置されたって感じなので、必要最低限しかそれまで出てこなかった人間が犯人だとわかっても、「え、この人が?」という意外性もないし、「やっぱりね!」と納得する気持ちにもなれなかったのでした。第一、家族全員の焼死を目論むのなら、深夜みなが寝静まったころに犯行に及ぶくらいの頭を働かせるだろう、普通。
 うーん、マイナス点ばかりを挙げてしまいましたが、事件の核心である●●ー●についての簡単に答えの出ない問題、自分と「違う」人間へ抱く恐怖から他者を排除・攻撃しようとする問題とかは考えさせられたし、「どんな人間だって精一杯、一生懸命生きてゆく権利があるんだ」という作者のメッセージはとてもよく伝わってきましたですよ。
 重たい問題を扱っていますが、語り口がさらりとしていて読みやすいので、『しゃばけ』シリーズのようなほんわか優しい雰囲気を求めず、本格SF、ミステリ小説でなしに良質なジュヴナイル小説と考えたら、これはこれでOKなのかもしれません。
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by nao_tya | 2006-06-16 15:13 | 読書感想etc.