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by nao_tya

映画感想:『ニュースの天才』

〔ストーリー〕
 アメリカ大統領専用機のなかに唯一設置されているという、権威ある政治雑誌「ニュー・リパグリック」の若き編集者スティーブン・グラス (ヘイデン・クリステンセン) は次々とスクープをものにしてスター記者となっていった。しかし、ライバル誌が彼の記事には虚偽があること指摘してきた。編集長のチャック (ピーター・サースガード) が調査を開始すると、なんとグラスの書いた記事がまったくの捏造であることが判明するのであった…。


原題:SHATTERED GLASS
監督:ビリー・レイ
原案:H.G.ビッシンジャー
脚本:ビリー・レイ
出演:ヘイデン・クリステンセン、ピーター・サースガード、クロエ・セヴィニー

 DVDレコーダーの残容量が残り少なくなってきたので、HD内に残っていた未見の映画のうち『ニュースの天才』を鑑賞しました。観るまではヘイデンくん以外の出演者をチェックしてなかったのですが、ピーター・サースガードとクロエ・セヴィニーという『ボーイズ・ドント・クライ』コンビ (?) に加えて、ロザリオ・ドーソンがチョイ役で出演していたので、なんだか得した気分(笑)。
 スティーブン・グラスの捏造記事というのは、少し詳しく調べればすぐにボロが出るようなもの。記事が実際に誌面に載るまでには何重ものチェックがなされるはずなのに、どうしてこのペテンが判明するまでに時間がかかったのか。
 グラスの記事の内容がスクープもので、一般に出回っている情報からでは確認がとりにくく、情報源はグラスの取材ノートのみという状況であったとしても、ライバル誌が少しつつけばあっという間に瓦解してしまうような嘘です。普通に考えればこれってすごく不思議。
 しかし、映画を観たら編集部内の人間が彼の記事について疑問を持たなかったのも、なんとな~くわかるのでした。
 グラスはとにかく気遣いの人だし、相手から親しみを持たれるような行動を自然ととれる人なんですよね。さりげなく相手を褒めたり何年も前に何気なく云ったひと言をちゃんと覚えてたり…。媚びてるとかおべっかを使っているという嫌らしさは匂わせずに、人をいい気分にさせてしまう。そのうえユーモアがあって話し上手。実際のグラスがどんなお顔なのかは知りませんが、演じてるヘイデンくんはハンサムだし。
 こういう好感度大の人間に対しては周囲の人間の目も甘くなりがちで、多少「んん?」と思うようなことがあっても見逃されてしまうことってあると思います。
 あと、チャックが云っていたように、グラスの作りあげたニュースの内容というのがセンセーショナルでおもしろかったというのも原因のひとつなんでしょう。記事に書かれた出来事のインパクトが強くて、その中身を検証することよりも「そんなことがあったの!?」という驚きにばかり気をとられてしまう。
 多分、グラスは虚偽のニュースをまったく何もないところから生み出したわけではなく、なにかしらヒントがあって、そこに「こうだったらおもしろいのに」ということを付け加えて中身を膨らませていったんじゃないかな~。最初は締め切りが迫ってきて苦し紛れにやったことが、バレずにすんだうえに非常にウケた。だったら今度はもっと楽しく、もっと人を喜ばせられるように…。あるいは、友達と話すとき歓心をひこうと少しの事実に装飾を加えていって、最終的にはまったく違うホラ話ができあがってしまった、というのと同じような気軽な感覚で。グラスは事実をできるだけ正確に客観的に伝える記者よりも、想像力と創造力を駆使して物語を編み出す小説家に向いた人間だったのかもしれません。
 しかし、友達とのヨタ話なら「あれって冗談だったんだ、ゴメ~ン」で済むかもしれませんが、れっきとした政治雑誌で同じことをしでかして、謝ればなんとかなると考えてしまうところがグラスの怖いところ。いや、メッキがはがれかけたときに嘘に嘘を重ねてなんとか取り繕おうとして、どうすることもできなくなってからようやく自分の罪を認めるあたり、かなり性質が悪くてムカムカしちゃいます。
 それでいて、いろんなシーンでグラスが繰り返す「怒ってる?」というセリフや、チャックがライバル誌の追及から自分をかばってくれないと癇癪を起こすところ、他の編集員に理不尽さを訴えて同情を買おうとするところとかを観てると、グラスがまるで子どものようにも思えてきたり。怒られる → 嫌われることが一番彼にとっては問題で、嘘八百の記事を世に送り出したことへの反省のなさ、彼の感覚のズレを、なんだかそら恐ろしく感じちゃいました。
 妙に狡猾なところがあるくせに浅はかで子どもっぽい、複雑で繊細なグラスという青年には、同情はできないけど観ていて居たたまれなさを感じてしまいました。
 で、そういうグラスと対照的なのが編集長のチャック。編集員からの信頼が厚かった前任の編集長が社長と対立してクビになったあとに抜擢された人物で、真面目で堅苦しいところも手伝ってみなの反感を一身に背負っていたようなお人。周りから敵視されるのがわかっていても編集長になったというのは、自分ならできるという自信があったからだと思うんですが、その揺るぎのなさがグラスの捏造が発覚してからは光ってきて、非常に存在感がありましたです。謝罪文に他の編集員がサインしてくれているのを見たときの彼の笑顔がとても良かった!
 グラスの記事がおかしいことに最初に気付くライバル誌の編集さんたちの興奮具合や、彼らの間でもこのスクープを誰の名前で出すのか、という手柄争いが繰り広げられている様子もおもしろかった。報道は事実を伝えるのが仕事だけれど、その裏側ではほかの会社と同じように人々の出世レースが繰り広げられているわけで、その思惑が報道を歪めてしまうこともあるんだろうなぁ、てなことも考えました。今回の事件の場合、歪められたことを正したのも報道だったわけで、そこに一抹の救いがあるのかな。
 あくまで淡々とした描写ですが、グラスの嘘が次々と暴かれていくところはかなりスリルがあってドキドキしました。実際に起こった事件を扱っているからこそ興味深い、佳作の1本と云えるのではないでしょーか。

●映画『ニュースの天才』公式サイト

ニュースの天才
/ ハピネット・ピクチャーズ
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by nao_tya | 2006-06-11 23:44 | 映画感想etc.