映画感想:『インサイド・マン』
2006年 06月 10日
ニューヨークの下町にあるマンハッタン信託銀行が銀行強盗に占拠された。ダルトン (クライブ・オーウェン) ら強盗たちは、人質全員に自分たちと全く同じ作業服を着せたため、警察は犯人グループと人質の区別がつかなくなってしまう。NY市警のフレイジャー刑事は犯人側と交渉を開始するが、ダルトンの落ち着きはらった様子に常の銀行強盗とは違うものを感じていた。膠着状態が続くなか、銀行のケイス会長は有能な弁護士ホワイト (ジョディ・フォスター) にある依頼を持ちかけていた…。
原題:INSIDE MAN
監督:スパイク・リー
脚本:ラッセル・ジェウィルス
出演:デンゼル・ワシントン、クライブ・オーウェン、ジョディ・フォスター
わたしにしては珍しく、公開初日に観に行ってきましたよ、スパイク・リー監督のサスペンス映画『インサイド・マン』。なかなかおもしろかったです~。
ダルトンをリーダーとする銀行強盗たちがなにやら普通と違うのは、映画の最初から雰囲気でムンムン伝わってきます。だから彼らが銀行に押し入ってからの行動の意味や、本当の目的はなんなのかということに興味をかきたてられて、画面に見入ってしまいます。
ただですね、この銀行強盗たちはダルトンを除き、まったくそれぞれの性格や個性が出てこないのです。ただ黙々と計画されていた行動をとっていくばかりで、名前さえわからないまま。顔もほとんどマスクとサングラスで隠されてしまうしセリフは少ないし、顔が露出しているシーンも短く切り替わっていくショットのせいでイマイチ印象に残らない。ダルトンを省いたら3人しかいないのに誰が誰やら? の状態だったのでした。
わたしの場合、軍隊モノの映画で部隊がジャングルや暗闇に入ってしまうと、みんな同じ迷彩服だは、顔がペイントされてたり泥で汚れたりだはで、区別がつかなくなって混乱することが多々あるんですけど、この映画もそれと一緒。観ててイライラしちゃいました。
でも実はこれって映画の狙いだったんですね。ストーリーは銀行強盗を時間の経過どおりに追っていきますが、その合間に、事件後解放された人質たちがフレイジャーに尋問される様子がさしはさまれます。それによって、銀行から飛び出した人質と犯人が同じ格好をしていたため、警察には両者の区別ができていないままであることがわかってくるのです。観ている側の混乱は、そのまま警察の混乱というわけです。
このほかにも人質を少人数に分けて小部屋に入れて、しょっちゅう中のメンバーを入れ替えている様子なんかもあって、観ている最中はなにをしてるんだろう? と思うことが、後になって「なるほど~」とフに落ちていく。まったくよく練られた計画なのでした。
ダルトンが銀行に押し入って手に入れようとしているモノは弁護士のホワイトが事件に横入りすることで判明しますが、彼がそれを使ってなにをしようとしているのかは、最後の最後まで明かされません。また、ダルトンが手に入れたモノについての情報をどこから入手したのかも最後になってわかる。ここでまた「なるほど~」。なんだかこればっかりなんですが、要所要所の伏線がちゃんと活きてるってことだと思います。
出てくる人たちが雑多な人種なのはさすがニューヨーク。ほんの少しの出番でしたが、通訳するかわりに大量の駐禁キップをチャラにしてもらったアルバニア人女性がちゃっかり者でおかしかったです。さりげなくユーモアにまぎれて人種差別の話が出てきたり、イスラム系の人間 (実際はシーク教徒でしたが) に警官が過剰反応するところとかは、社会派と云われるスパイク・リー監督だな~って感じです。しかし、少年の持っていたゲーム、あれはやりすぎだと思うぞ~ (あんなゲーム、本当には売られてないよね??)。
銀行強盗のダルトン、やり手弁護士のホワイト、刑事のフレイジャーと三者三様に一癖二癖あるやつばかりで、みな善人ではないところがかえって魅力的。しかし、ウィレム・デフォー演じるダリウス刑事が今回はあまりに普通の人だったのがもったいないというか残念だったかな。
それにしても、タイトルの『Inside man』は組織・会社などに入り込んでいる潜入スパイの意味があるので、銀行内に強盗犯の内通者が?? などと色々考えてたんですが、まさかそのまんまストレートな意味だとは思いもよらず。わかったときには唖然としちゃいましたわ。そしてここで床に穴を掘っていた意味や映画冒頭にダルトンが云っていたことがようやくつながって、またしても「なるほど~」となったのでありました。
時間が経ってよーく考えてみたら、なんでホワイトが交渉に行くときに盗聴器をしかけなかったの? とか疑問がないわけでもないですが (これはバレたら危険だから、という考えもあるか)、派手な銃撃戦や爆発などないのに最後までスリリングで、とっても鮮やかな犯罪の手口を見せてもらえたので満足できる1本でした!
●『インサイド・マン』公式サイト