映画や本の感想アレコレ。ネタバレにはほとんど配慮してません。ご注意! 


by nao_tya
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読書感想:エリス・ピーターズ 『聖なる泥棒』

〔ストーリー〕
 ジェフロワ・ド・マンデヴィルが死亡し、略奪されていたラムゼー修道院が返還されて修復されることになった。シュルーズベリ修道院にはラムゼー修道院の副院長補佐ヘールインと見習い修道士チューティロが援助を求めにやってきた。再建資金の寄付集めも首尾よく成功し、あとはラムゼーに戻るばかりとなったところで大雨による洪水に見舞われてしまう。修道院では貴重品の避難がされたが、水が引いたときに聖ウィニフレッドの遺骨を収めた聖骨箱が紛失していることが判明した…。


 「修道士カドフェル」シリーズ第19作『聖なる泥棒』、読了です。これもドラマ化されたものを先に観ていたので読みやすいかな~と考えていましたが、最後まで話にノリきれず思いのほかてこずって読み終えるまでに時間がかかってしまいました。
 なんでなんだろうと考えてみたところ、レギュラーメンバーはともかくとして、どうもこの話で新たに出てくる登場人物のなかに誰ひとりとして思い入れを持てるような人間がいなかったことが敗因ではないかと思われます。
 そのせいで、シリーズ第1作『聖女の遺骨求む』でのカドフェルの行為が暴露されるかどうかの瀬戸際に立たされるスリルは楽しめましたが、いつものように、互いに対する気持ちはあるのに様々な障害のためになかなか結ばれないカップルの行く末にヤキモキしたり、彼らが巻き込まれた殺人事件の動機や犯人探しに頭を悩ませたりってことがなかったのでした。
 今回の登場人物で一番注目を集めるのは、ラムゼー修道院からやってきた見習い修道士チューティロ。彼が恋の行方の当事者であり、聖ウィニフレッド行方不明事件や殺人事件に大きく関わっている人間なんですね。音楽の才能にあふれた青年で、決して悪党というわけでもないんですが、どうもこの芸術家肌の人間というのはわたしとは相容れないものがあるようで。
 地に足が着いてなくて浮世離れしているみたいなのに、決して純粋無垢というわけでもない。簡単にウソをついたり下手な小細工をしたりと、やってることはけっこうコスイ。だからわたしは彼がどういう人間なのかいまひとつ掴みきれず、最後まで共感も反発もできないままでした。善悪どっちつかずの複雑でややっこしいところがどうでもいいやと思えるくらい、チューティロの音楽の才能はすごいんだ! ということがわかるシーンがあれば、また印象も違ってたんでしょうが、彼が音楽に触れる場面はわりとあっさりとした描写だったので、よくわからん奴だなぁで終わってしまったのでありました。
 第17作『陶工の畑』のドナータが再登場し、静かな最期を迎えたことがわかったのは良かったです。死がいよいよ近づいて、ますます透明感を増して観察力が鋭くなった彼女が、チューティロのことをなにもかも見通したように語った言葉が、物語の終わりに再び出てくるところなんてちょっとゾクゾクしてしまいましたよ。
 あと興味深かったのは、聖ウィニフレットの落ち着き先を決めるのに行われた、福音書を使った占いの様子です。閉じてある福音書のページを適当に開いて、そのページのなかでこれまた適当に指差した部分をご託宣として解釈するという占い。今の時代だったら絶対にそんなんアリか!? とツッコミを入れられるでしょうが、「聖女のご意志」としてこれが当然に受け入れられちゃう。神さまと人々の距離が近かった中世ならではの争議の解決方法だな~と感心しちゃいます。
 まったく作為なしに選んでいるはずなのに、ピタリピタリと状況に合った一文が登場するあたりはいかにも小説ですが、占いの場が緊張感あふれる敬虔な雰囲気に包まれているのが読んでいて伝わってきて、なんとなく納得してしまうのでした。風でめくられたページに白い花びらが落ちてくるシーンなんて、読んでて息をつめてしまうくらい美しかった!
 そうそう、忘れてはならないのは、ロバート副院長の腰巾着ジェローム修道士ですね! ラドルファス院長の信頼を受けて、事件が起こればかなり自由に行動するカドフェルをおもしろく思ってない態度が見え見えだし、しょっちゅう修道院内をかぎまわってはロバート副院長に告げ口をしている小憎たらしいジェロームが、今回はかなり心理的に痛い目に遭っています。かわいそうと同情するよりも、ざまぁみろって気分になるのはこれまでの行動からいたしかたないかと…(笑)。
 ロバート副院長とラムゼーのヘールイン副院長補佐の角突き合いに、暇をもてあましたレスター伯ロバートがちょっかいを出してくるあたりも楽しかったです。レスター伯にいいように遊ばれているのに、互いの主張を通すのに夢中でまったくそれに気付かないふたりがオカシイ。傍観者のヒューだけがこの状況をおもしろがっていたようで、最近はあまり出てこなかったヒューの人の悪さがヒョッコリ顔をだした感じです。このレスター伯、なかなか人間ができた魅力的な人ですが、このシリーズも長編は残すところ1冊だけでは再登場は無理でしょうかね~。
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by nao_tya | 2006-06-06 23:19 | 読書感想etc.