映画や本の感想アレコレ。ネタバレにはほとんど配慮してません。ご注意! 


by nao_tya
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読書感想:エリス・ピーターズ 『デーン人の夏』

 エリス・ピーターズ「修道士カドフェル」シリーズ第18作は、『デーン人の夏』。シリーズ最初のころにカドフェルの助手だった修道士のマークが助祭となって姿を見せ、お馴染みのシュルーズベリから離れてウェールズで展開するお話です。

〔ストーリー〕
 ウェールズで復活した司教区の新任司教へ、ロジャー・ド・クリントン司教から祝いの書簡と贈り物が届けられることになった。選ばれた使者は、かつてのカドフェルの助手で、今はリッチフィールドで司祭となるべく励んでいるマーク。マークはシュルーズベリへ立ち寄り、ラドルファス院長の許可を得てカドフェルが通訳としてウェールズへの旅に同行することになった。懐かしいマークとの心弾む旅となるはずだったのだが…。


 というわけで、シュルーズベリの修道院から姿はなくなったものの、しばしばカドフェルの脳裏をよぎっていたマークが久々に再登場しました。「あらあら、マークってば立派になっちゃって!」と、読みながらすっかり近所のおばちゃん状態になってしまったわたしです。
 前作の『陶工の畑』がわりとミステリ寄りの話だった反動なのか、この『デーン人の夏』は殺人事件は起こりますが、推理力を働かせてその犯人を突き止めるような展開はせず、どっちかというとこの件に関しては放ったらかし。最後に殺人者が告白して解決、という感じです。
 そのかわり重点が置かれているのは、登場人物たちのなかなか複雑で興味深い人間模様でありました。特にオエインとキャドウォラタ、メイリオンとヘレズの愛憎半ばするような関係が秀逸だったのではないかと。
 まずは、『死者の身代金』で初登場だったかな? これまでも名前は良く登場していたウェールズのグウィネズ領主オエインと、彼の弟キャドウォラタ。このキャドウォラタがまさにトラブルメーカーというのにふさわしい人物で、厄介ごとを引き起こしてはオエインを怒らせるものの、オエインはどうしても彼を突き放せないでいるんですね~。
 キャドウォラタは、自分の側近たちにオエインの娘の婚約者である領主を襲わせて殺させたり、それをとがめられて追放されたら、今度は自分の領地を取り戻すためにデーン人と契約してオエインに脅しをかけてきたりと、やってることはかなり悪辣で卑怯なのに、なんでか憎めない。考えなしだけど反面底なしの楽天家というか、そのバカっぽさがそう思わせるんでしょうか。自分が兄に愛されており結局は許されることをちゃんと了解していて、それに甘えているという自覚もなくどっかり胡坐をかいて恥じないでいるとこが、なんというか「弟」だな~と思います。
 新しい司教区の聖堂参事会員メイリオンとその娘ヘレズの親子も、なんだか奇妙な関係です。メイリオンは妻帯した聖職者 (司祭) ですが、新しく司教となったギルバートが聖職者は独身でなくてはならぬという考えの持ち主なので、妻が亡くなったのをコレ幸いとし、妻帯していた証でもある娘を遠くに嫁にやって、いわばその存在を“なかったこと”にしようとしているのです。
 これって当の娘にしたらたまったもんじゃありませんよね。自分が存在していること自体を誰かが“罪”とみなしていることや、それを出世のために容認してしまう父に対して怒りを抱いて当然です。それでもやっぱり父親を愛しているから、できるだけ彼に不利なことはするまいという気持ちが切ないじゃないですか。
 しかし、そういう感傷的な気持ちを吹き飛ばしてしまうくらいヘレズが活力にあふれ、自分をしっかり持った娘さんなので、話は全然湿っぽくなりません。むしろ、自分自身の運命をつかむために彼女が起こした行動に、読み終わった今は拍手喝采したい気分!
 「修道士カドフェル」シリーズですから、当然そういうヘレズと恋仲になる青年も登場します。勝気なヘレズがこの青年に反発し、青年は半ばおもしろがるように鷹揚にそれを受け止める。作中で具体的なふたりのやりとりの描写というのはごくごく少なく、カドフェルの目をとおしてふたりの間で無言の探りあいや恋の駆け引きがあっただろうことが察せられます。その文章になってない部分を想像するのがまた楽しかったです。互いの気持ちが、言葉が必要でないほど固く結びついていたことがわかる夕刻の海岸でのシーンは、このシリーズのなかでも1、2位を争うくらい美しく心を打つ場面だと思います。
 ただひとつ気になったのは、カドフェルも云っていますが、メイリオンの本心です。彼は本当はどこまで自分の娘のことを気にかけ、心配していたんでしょうか? ここだけがなんだかスッキリしない幕切れだったのでありました。実はメイリオン自身も、娘の不在の大きさをこれから実感するようになるのかもしれないですけどね。うーん、これって少しはメイリオンにも娘に対する仕打ちを後悔してほしいというわたしの願望なのかしら。
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by nao_tya | 2006-05-27 23:14 | 読書感想etc.