映画や本の感想アレコレ。ネタバレにはほとんど配慮してません。ご注意! 


by nao_tya
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映画感想:『ナイロビの蜂』

 日曜日にフェルナンド・メイレレス監督『ナイロビの蜂』を観てきました。ジョン・ル・カレの原作を読んでからもう1年くらい経ってるのかな。映画化の話をはむちゅうさんのブログで知って、監督も出演者も魅力的だったので読んでみるか~、くらいの気持ちで読んだんですが、今でも読み終わったときのカタルシスっていうとなんかちょっと違う、うーん、そのしみじみとした感覚が忘れられません。
 文庫上下巻の本で、上巻の途中 (主人公のジャスティン・クエイルがイギリスに帰るくらいまで) は全然小説世界に入り込めず、最後まで読みきれるのか不安を覚えてしまったんですが、そこまで進むと後はもうのめり込むようにしてラストまで突っ走っちゃいました。
 自分にそれだけ強い印象を残した小説が原作なだけに、どんな風に映像化されているのか楽しみなのと怖いのと半分ずつくらいの気分で映画館に足を運びましたが、とても満足した気分で帰ってくることができました!

〔ストーリー〕
 イギリス外務省一等書記官のジャスティン・クエイルは庭いじりが趣味の物静かな男。そんな彼のもとに、2日前にナイロビからロキへ旅立った妻テッサが殺されたとの知らせがもたらされる。テッサは友人の黒人医師アーノルドと共に、スラムの医療施設を改善する救援活動に精力的に携わっており、今回の旅行もその一環だったはずだ。同行したアーノルドは行方不明のままで、テッサの不倫疑惑が持ち上がってくる。彼女の死に不審なものを感じたジャスティンは独自に調査を始めるが…。


原題:The Constant Gardener
監督:フェルナンド・メイレレス
脚本:ジェフリー・ケイン
原作:ジョン・ル・カレ
出演:レイフ・ファインズ、レイチェル・ワイズ、ダニー・ヒューストン

 生きているテッサというのは映画の冒頭、ナイロビ空港でのシーンでちょこっと出てくるくらいで、後はジャスティンの回想という形でしか登場しません。ジャスティンはテッサの死によって、彼女が自分に見せていたのは一面だけで、実は自分の知らない部分があるのではないか、彼女の愛情はどこか余所を向いていたのではないか、という疑いを抱きます。確かだったはずの妻の存在が、あやふやでぼんやりとした掴みきれないものになってしまうわけです。回想のなかの彼女はいつでも笑顔で美しい。でも本当は…?
 テッサの死の真相を探るため、ジャスティンは彼女の足跡を追う旅に出ます。そのなかでテッサが何をしようとしていたのか、どうしてそれをジャスティンには打ち明けようとしなかったのかがわかってきて、ようやくジャスティンはテッサからの愛とテッサへの愛を再確認する。そうすると、観てるこちらにも、どんどんテッサの印象が色濃くくっきりと浮かび上がってくるようになるのです。
 ジャスティンは自分の体調も省みず救援活動に熱中するテッサを心配するものの、結局彼女を止められず、「君の人生に干渉したりしない」と云うシーンがあります。相手の意思や考えを尊重するということで、もちろんこれはすごく大切なことだと思うけど、このセリフはやっぱりちょっと悲しい。だって結婚して家庭を築いているふたりが、互いの人生に干渉しないでいられるわけがないもの。この臆病なまでに相手を気遣うジャスティンの優しさが、かえってテッサに真実を打ち明けて彼を巻き込むことをためらわせたんじゃないかな~とも思ってしまいます。
 だから、決して冷たいわけでも利己的なわけでもなく、むしろ良心的で暖かい人だけれど、いつでも自分にできる人助けの限界を冷静に見極めていたようなジャスティンが、テッサと同じように「今ここに助けを求める人間がいて、少し自分たちが手を伸ばせばそれが可能なのに!」と声を荒げるまでになる、というのがとても印象的でした。
 ラスト近く、ロキへ向かってドライブするジャスティンの傍らにはまるで本当にテッサがいるかのようです。これはジャスティンの思い込みとか妄想なんかじゃなく、それだけ強く深く彼のなかにテッサが刻みこまれ、テッサとジャスティンの心が寄り添ったということなんだと思います。悲しいけれどとても美しいシーンでした。
 『ナイロビの蜂』はジャスティンとテッサのラヴ・ストーリーが基盤ですが、同時に発展途上国で今現在起こっている問題について考えさせる社会派の映画とも云えます。「アフリカの人々の命はとても安い」という言葉がズッシリと重く響きます。わずかな食料品や医療のために、その危険性も知らされず新薬の実験台となっているのかもしれない人々。なのに餓えや貧困のなかでも彼らの表情は力強く、子どもたちの笑顔は屈託なく明るい。生きる力がどんどんひ弱になっている気がするわたしたちと比べて、搾取されているはずの彼らはなんと生命力にあふれているんだろう。感嘆せずにはいられませんでした。
 サスペンスであっても派手なシーンはほとんどなく、「地味」という言葉が本当にピッタリ。でも、観たあとでとても静かで深い思いに満たされて、何度も好きなシーンを反芻しちゃうような、もう一度観たいと思わせられる映画。かなりお勧めです。

●『ナイロビの蜂』公式サイト

ナイロビの蜂〈上〉
ジョン ル・カレ John Le Carr´e 加賀山 卓朗 / 集英社


ナイロビの蜂〈下〉
ジョン ル・カレ John Le Carr´e 加賀山 卓朗 / 集英社
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by nao_tya | 2006-05-22 23:44 | 映画感想etc.