映画や本の感想アレコレ。ネタバレにはほとんど配慮してません。ご注意! 


by nao_tya
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映画感想:ヒストリー・オブ・バイオレンス

 関東から遅れること1ヶ月ちょい。ようやく関西でも公開の運びとなりましたので、昨日は張り切ってデイヴィッド・クローネンバーグ監督「ヒストリー・オブ・バイオレンス」を観てきましたよ~。張り切りすぎて上映時間の2時間半前に劇場に到着してましたがな。だって先着順でヴィゴ・モーテンセンマリア・ベロさんのサイン入り生写真プレゼントがあったんだもん! しかも整理番号は9番。てことは、わたしの前に8人もの猛者がいたってことです。や~、まだまだわたしも甘いなっ。
 しかし、1ヶ月は本当に長かった…。あまりのもどかしさに、週末に夜行バスで東京まで行って映画を観てトンボ帰りというアホな計画を、かなり真剣に検討してしまったくらいです。普段は関西在住であることに不自由を感じることなんて特段ないのですが、映画の公開時期や海外の俳優さん・監督さんの来日に関しては、関東 (というか都内) 在住の方々がうらやましくなりますな。

〔ストーリー〕
 アメリカの田舎町でダイナーを経営するトム (ヴィゴ・モーテンセン) は、弁護士の妻とふたりの子どもとともに平凡だが幸せな生活を送っていた。しかしある夜、閉店間際の店へ押し入ってきた強盗ふたりにトムが反撃し、従業員や客を救ったことですべてが変わっていく。
 事件がメディアに取り上げられ、一夜にしてヒーローになってしまったトム。その余波でダイナーも繁盛するなか、曰くありげな男たちが現われ、トムに親しげに「ジョーイ」と呼びかけてきた。人違いだと否定するトムだが、男たちはそれから執拗にトムたち家族につきまとい始めるのであった…。


 暴力描写がけっこうキツイというようなことをチラホラ聞いていたので、かなり覚悟して観にいったせいか思っていたほどグロさは感じませんでした。これならリピーターになれそう (←なるのか!?)。いや、「銃で頭を吹っ飛ばされるとこんな風になるのか、うげげっ!」くらいは思いましたけれども、むしろどんな理由であれ、暴力によって引き起こされる結果というのは残酷で惨いものなんだということを、ごくごく冷静に目の前に提示され、こちらも冷静に受け止めたって感じです。必要以上に誇張もしていないし、矮小化もしていない。
 ストーリー自体はいたってシンプル。平凡な暮らしをしていた男には実は後ろ暗い過去があって、とある事件をきっかけにその隠していた暗部がひきずり出されてくる、という。とっかかりだけ聞くと、「あー、あるね、そういう話!」とそれだけでラストまでわかってしまうような気のするお話ですな。でも観終わったあとの感想はというと、うーん、なんとも言葉にしづらいものが~。爽快感なんてもちろんないし、希望があるともいいがたい。かといって理不尽さに怒りを覚える悲惨なエンディングということでもないし。ひたすら後にひきずって、何度も何度も頭のなかで「映画のあと」のことを考えちゃうような、自分のなかに整理しきれないものを残す映画でありました。
 ただ、この映画のトムほどではないけれど、誰のなかにでも暴力の芽はあるということ、芽吹いた暴力が犯罪と呼ばれるか正義と呼ばれるかは、実はささいな違いでしかないってことをガツンと突きつけられた気分です。だってトムが過去になにをしてきたか具体的なことは一切不明なんだから、もしかしたらリッチー (ウィリアム・ハート) やフォガティ (エド・ハリス) の行為にだって“正当な理由”があるってことも考えられなくはないわけですよ。
 ほとんどの人が暴力を奮うことには嫌悪感を示すし、奮われることには抵抗しようとするでしょう。みなが暴力がイヤなのにそれでも暴力がなくならないのは、結局その暴力が行われた背景を考えて可・不可のラベルをつけようとするからなのかも…。肯定される暴力と否定される暴力の違いは? なんてことをゴチャゴチャ考えてしまいました。
 役者さんたちは子役も含めてみんなすごーく良かった! 特に妻のエディ役のマリア・ベロさん。自分の最も身近で信頼する存在だと考えていた夫に、まったく想像したこともなかった一面があることを知ったときの混乱や恐怖、怒り、拒絶。でもやっぱり残っている相手に対する愛情。複雑でこんぐらがった内面がこちらに迫ってきます。そしてやっぱり考えてしまうのは、もしこれが自分だったら? ということ。戻ってきたトムを受け入れることができるのか。受け入れたいと思って努力しても結局ダメで、それこそ決定的な破局を迎えてしまいそうな予感はするけど、でもでも…、と堂々巡りな葛藤が渦巻いて結論は簡単に出そうにありません。
 そしてヴィゴ演じるトム。普通の旦那さんでお父さんをしているヴィゴを観るのは、これが初めてかも。しっかり者の奥さんに主導権を握られがちで、でもそういう自分に特に不満もなく穏やかな生活を楽しんでいる男が、タメもなくそれこそ一瞬で切り替わって爆発的な暴力を奮う。そうやって敵を倒した次の瞬間、またフ、と緊張がとけて素 (?) に戻る。この落差とかスピード感に胃のあたりをギュギュッとつかまれるような心持ちがしました。
 開放的で明るい日差しのなかにいたトムが、ストーリーが進むにつれ、どんどん薄暗く狭い場所に行ってしまい、ヴィゴの深い眼窩やそげた頬に影が落ちて、ちょっと怖いような冷たい雰囲気が前面に出てくると、前半と後半では受ける印象がまるで変わってしまうのもすごい。そしてどんなショットもヴィゴ・スキーのわたしのツボを直撃してきて、もうもう「ありがとう、クローネンバーグ監督!」と監督のいるカナダにむかって万歳三唱したい気分に(笑)。クローネンバーグ監督の映画は4、5作しか観ていませんが、いずれも男優さんが美しく撮られているのがスバラシイ!
 とにかく、はむちゅうさんがおっしゃっていた「いい映画かどうかはともかくとしてスゴイ映画」という言葉が、観たことで実感できたのでありました。観るたびに解釈も違ってくるし新たに気づくことがありそう。うーん、本気でリピーターになるやもしれません。少なくともDVDは発売が決まったら即予約! 勢いあまって海外版にまで手を出しそうな勢いです…。

●「ヒストリー・オブ・バイオレンス」公式サイト

●原作のグラフィックノベル
ヒストリー・オブ・バイオレンス
ジョン・ワグナー ヴィンス・ロック 石川 裕人 / 小学館プロダクション
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by nao_tya | 2006-04-16 18:09 | 映画感想etc.