林業で生計をたてる岸克彦がいつものように山林のなかで伐採をおこなっていると、ひとりの男が撮影中のためしばらく音を止めてくれと頼みにくる。村にゾンビ映画の撮影隊がやってきているのだ。別の日、岸は件の彼とその連れの若い男が車が溝にはまって立ち往生しているところに出くわし、成り行きで彼らを撮影現場まで案内することになるのだが…。
監督:沖田修一
脚本:沖田修一、守屋文雄
出演:役所広司、小栗 旬、高良健吾
先週末、大学時代の友人とランチして夕方に解散したあと、沖田修一監督の『キツツキと雨』を観にいってきました。この映画の公開があったからでしょうか、先日深夜に沖田監督の『南極料理人』をテレビで放映してましてね。そういや公開時に見逃してたなぁと軽い気持ちで観たらば、いやもうこれが私のツボにぐいぐいはいってきちゃって! 俄然『キツツキと雨』観たい熱が上昇したというわけなのでした。
で、実際観てみましたらかーなーり楽しかった! 大爆笑というより小さな笑いが絶えずわきおこって、観たあとはほのぼのとあたたかい気持ちになる映画でした。映画づくりの大変さと楽しさ、年代も背景もまったく違う人間の出会いがもたらす変化が周囲にも影響を及ぼしていく様子が、とても細やかに鮮やかに描かれています。なにか大きな事件が起きるわけじゃないけど、ひとつひとつのエピソードがきちんと計算されて配置されてるんだと思う。それらが積み重なっていくことで説得力が出てきて、観てるこちらの心が動かされるんだよね。
リーダーである監督の幸一がとにかくヘドモドしてて決断力がないもんだから、どうにもまとまりのつかなかった撮影隊が、幸一が変わることによって雰囲気がよくなってくる。岸さんの助力で村のひとたちも巻き込んで、映画づくりへの一体感がでてくる様子がとてもイイです。良くいえばのどか、悪くいえば活気がなくてよどんだような村が、映画撮影という“お祭り”で盛り上がっている様がほほえましかった。村の人間が老いも若いも関係なし、ことごとくゾンビ・メイクしてるあたりなんて、もう笑うしかないです~。
この撮影隊の熱気にあてられてか、最初は「絶対あたらんやろ、コレ…」という駄作臭を漂わせていた田辺幸一監督の『UTOPIA~ゾンビ大戦争』が、物語の最後になると「低予算のB級映画ながら、ひょっとするとカルトな人気が出るかも!?」という期待を持たせる映画になってたりするのがオカシイ。とはいっても、この映画で泣ける人ってかなり奇特な人のような気はするんですけど。
冒頭ではわけもわからず映画撮影の手伝いに巻き込まれて憮然としていたのに、周囲の反応に気をよくするきこりの岸さん (役所広司)、初めての監督業にパニック状態で自分を見失ってしまっている幸一 (小栗旬) という主要な登場人物はもちろん、ベテランの助監督、職人カメラマンなどなど脇の人間もみ~んなキャラがたってておもしろい。チーフ助監督役の古舘寛治さんとかいい味出してます。このかた、今まで舞台での活動が主だったみたいですが、映像の世界でももっと観たい役者さんです。
あと『南極料理人』ほどではないですが、この『キツツキと雨』でも食事のシーンがたくさん出てきます。岸さんがひとり卓袱台にむかう。仕事仲間とお弁当を食べる。岸さんと幸一が並んであるいは向かいあって食事する。岸さんと息子の浩一くんが朝食をとる。同じ食べるという行為のなかに、それぞれ違う意味があってうまい演出だなぁと思わせられました。わたしは岸さんが幸一にジンクス破りをさせるあんみつのシーンが一番好きかな。
とにかく、丁寧に愛情をもって作られたことが感じられる、ほんわかした映画です。いろんな人に「良かったよ~」とお勧めしたくなっちゃう。というわけで、機会がありましたらぜひぜひ観てください! とネット世界の片隅、僻地ブログから叫んでみるのでした。
●映画『キツツキと雨』の公式サイトはコチラ。
『キツツキと雨 ユートピアを探して』
沖田修一 (角川書店)
ロケハン隊が撮影のベストスポットを探す映画の前日譚。
なんと『UTOPIA』のシナリオも収録されているそうな。
読んでみたいかも~!?